ブランデー


ワインに比べてブランデーの歴史は新しい。17世紀のはじめ、コニャック地方の外科医がワインを蒸留して作ったのが最初であると伝えられている。(異説もある)この地方は紀元前後にローマ人の支配をうけていらいワイン作りが盛んであったのであるが、1630年頃には生産過剰の状態にあって処理にこまっていた。そこでビネガーにしないために蒸留してみたところ、意外に好評で、イギリス国内だけでなく海外にも輸出するようになったのである。
ブランデーの階級を表す「ナポレオン」は、1811年のローマ王ナポレオン2世(フランソワ=シャルル=ジョゼフ=ナポレオン2世・ボナパルト)の誕生にあやかって「ナポレオン・ブランデー」と呼んだのがはじまりである。この年は天候に恵まれ、いわゆる”ビンテージ・イヤー”であったが、ナポレオン帝国の凋落が始まった年でもあり、最後の恩恵にあずかったというところであろうか。


 
イートン校の運動場が英軍に戦勝をもたらしたのか?


”ワーテルローの戦勝はイートン校の運動場で成し遂げられた”。ワーテルローの勝利者にして後のイギリス首相のサー・アーサー・ウェリントン公爵の有名な格言として知られるこの言葉は、現実には公爵の言葉ではないのである。 そもそもこの時代のイートン校には集団競技のチームもなく、乗馬コースはあっても、運動場なるものはなかった。
また公爵は、パブリック・スクールであるイートン校の在学期間が短く、学業にははなはだ不熱心で、家庭の事情から退学してしまっている。公爵はもともと飾らないぶっきらぼうなタイプの人物で、クラブにズボン(当時はブリーチが正装)姿で行って入場を断わられたことがある人物だった。
わざわざ母校を引き合いにだして持ち上げる義理はとくにないし、そういうことをするタイプでもなかったのである。彼は貴族らしい性格であったにも関わらず、上流階級の文化には愛着を感じていなかった。
公爵の経歴から言うならば、むしろその後のブリュッセルでの生活や(革命前の)フランスでの士官学校時代の方が、有意義であったかもしれない。何しろブリュッセルはワーテルローのすぐ近くであったので、その土地鑑が戦勝に大きく作用した。
この格言とされるものを、最初に文章で発表したのはフランスのシャルル・モンタランベール伯爵で、彼の著書「イングランドの政治的未来」の中での一節だった。この本は1855年、ウェリントン公爵の死後、三年たってから出版されている。


 
ユーロトンネル の奇妙な物議


英仏間トンネル構想が、ナポレオンの対イギリス戦、ブリテン島征服の野望にさかのぼるのは有名な話であるが、現代に完成したトンネルが別の形で物議を醸している。

英仏を結ぶ高速鉄道ユーロスターのロンドン側終着駅がウォータールー駅なのは、フランスが英国に敗れた「ワーテルロー(ウォータールー)の戦い」をフランス人に思い起こさせる――としてパリ選出の地方議員がブレア英首相に駅名変更を求める手紙を送ったのである。
ワーテルローはベルギー中部の都市で、1815年にウェリントン公率いる英軍がナポレオン率いるフランス軍に大勝利をおさめたことで知られる。
(百年戦争後半の”アジャンクールの戦い”以来の大敗北としてよく形容される。)
この議員は「ユーロスターで英国を訪れたフランス人を辱めるもので、両国の友好にそぐわない」と主張。
一方、パリ側の到着駅は「北駅」で、「フランスはわが国を訪問する人々に屈辱を与えたりはしない」としている。
議員は英国が改名に応じない場合、北駅を英国がフランスに敗れた戦いの名に変更するよう議会に働きかける、と警告しているが、英メディアは「ウォータールー駅は戦いの名前ではなく、昔、近くにあった橋の名前から取ったものなのに」と英国側の戸惑いの声を伝えているが、因果は巡るというところか。
(1998/11/08のニュースより)



 
線路 はつづくよどこまでも


"There's a Long, Long Trail a-Winding"、 第一次大戦中、泥と土ぼこりにまみれて重い足を引きずっていた英米の兵士たちにとって、彼らの歌う「長い長い道のり」とはまさにその目前に伸びているものだった。 そしてその果ての夢の国とは海の彼方の故国にほかならなかったのである。 しかしエール大学の学生、アロンゾ・エリオットがこの歌を書いたとき、その脳裏にあったのはフランドルの塹壕ではなく、ナポレオンのモスクワ退却だったのである。
彼はこの曲を1913年に作曲したが、音楽出版社に相手にされなかった。 しかし翌年、勉学のためイギリス・ケンブリッジに渡ると、この歌がもてはやされだした。 楽譜は400万部も売れ、アメリカでも好評を博した。 エリオットは大金を稼ぎ、それとともにオペラの作曲法を学んで、1952年「線路はつづくよどこまでも」、「栄光何するものぞ」などにも使われた。