[第41場面 、 百歩後退]

ウェリントン : ( 騎兵隊を集めているが 歩兵に動きはない
珍しく「騎兵隊」という言葉を使っているが、騎兵隊と歩兵? 騎兵と歩兵のほうがいいんじゃないか。
何をたくらんでいる


ウェリントン
 : 「すごい砲撃だ」
ヘイ : 「ただいま」
ウェリントン : 「ヘイ卿」
ヘイ :
ウェリントン : 「伝令を 本隊は百歩 後退すると」
話を変えるな。ウェリントンはヘイに逃げろと言っているから、直後にヘイが抗議するのであって、これでは総司令官の「百歩後退」の命令に異議を唱えているようだ。
ヘイ :
ウェリントン : 「早く行け」

ウェリントン : 「全隊に伝えろ 百歩 後退しろと」
デランシー : 「全隊 百歩下がれ」
「第27歩兵連隊 第92連隊の後ろに続け」
第92連隊にだけ「歩兵」は付けないのか?第92高地連隊とか。

伍長オコーナー : 「閣下」 「雷が落ちた木のそばは 危険ですぜ」
ここはやや場違いながら、オコーナーとしては雷と砲撃とをかけて言っているのだろう。真意は、「砲弾の落ちてくるところに立っているのは危ない」と、至極あたりまえのことを忠告として言っているはずで、とすると「雷の落ちた」では駄目ということになる。砲弾が一回落ちたところにまた落ちることは(ほどんど)ないわけで、「落雷中に」でないと全然”かから”ない。
ウェリントン : 「忠告ありがとう」


[第42場面 、ネイの騎兵突撃]

ネイ : 「ウェリントンが退却する」 「敵が逃げるぞ」
「ミロー 続け!」
ミロー : 「ただいま 全員突撃!」

ネイ : 「突撃ラッパを吹け」 「突撃」


ネイ
 : 「ルフェーブル いるか?」
ルフェーヴル・デュヌエット将軍 : 「はい ここに」


マーサー
 : 「撃て!」

コルボーン大佐 : 「方陣に戻れ!」
上を参照。
「馬を狙え」


ナポレオン : 「ネーの騎兵隊はどこだ」
「余がいない間に 何をしでかした?」
 
「歩兵を置いて突撃するなど 自殺行為だ」
「歩兵を置いて」というより、「支援もなしに」にすべき。ここは歩兵よりも「Support」が重要。
「なぜ止めん」 


ヘイ 
: 「愛する妻 恋人 故郷を思い出せ」
「イギリスのために戦え 祖国のために!」
「祖国のために!」


伍長オコーナー : 「かかって来い」

兵卒トムリンソン : 「放せ」 「おれに構うな」
兵卒マクケビン  : 「どこへ行く 戻れ」
伍長オコーナー :  「誰か止めろ」
英軍兵士T : 「トムリンソン!」
? : 「方陣へ戻れ」

兵卒トムリンソン : 「初めてあった人間同士 なぜ殺し合う?」
「なぜだ 何のために?」 「なぜ殺し合う?」
「なぜだ なぜ戦うんだ」 「何のために?」
兵卒トムリンソン : 「なぜだ」

[第43場面 、ラ・エ・サント陥落]

ネイの副官 : 「ネーが歩兵の要請を」


英軍士官B : 「ランバード旅団長が ウーゴモンに増援をと」
ランバード少将は”師団長”。正式な師団長はコール中将だが、新婚旅行で不在のため、彼が師団長を務めていた。自分で調べて旅団長としたのだろうが、「旅団長」はおろか「ランバード」の人名も字幕に登場させる必要がないのではなかろうか。字数制限もオーバーしているし、登場しないキャラクターの名前を字幕にする意味がある? この訳者の重要な部分とそうでない部分の選択は
ウェリントン : 「健闘を祈ると伝えてくれ」
ウェリントン : 「デ・ランシー 大砲を城館に向けろ」

英軍士官C : 「軍医を呼べ!」 「早くしろ」

午後6時 ラ・エ・サント


フランス兵A : 「農家は頂いた」 「フランス万歳!」


ナポレオン
 : 「スルト  パリに手紙を」
「今すぐにだ こう書け」
「時刻は?」
スルト : 「6時ごろかと」
ナポレオン : 「よし こう書くのだ」 「” 午後6時に--”」
「”ウェリントンの軍を撃破”」
「”戦いに勝った”」
「いや」
「こうしよう”フランスが勝利した”」  「”フランスが勝利した”」
ここは翻訳家でなくても、下手すると中学生でもわかる。はっきり「WE WON A WAR」と言ってるじゃないか。「会戦」に勝ったを「戦争」に勝ったと言い換えようというセリフなのに、何これ!?「フランスが勝利した」?より曖昧な表現にする馬鹿がどこにいる。訳者は根本的に理解を欠いているいるのではなかろうか。前半のバスルームのシーンで「Everything depends on one big battle, just like at Marengo.」というセリフがあったではないか。それをこの訳者は「マレンゴの戦いのように 勝機を逃がすな」という風にピントのずれた訳にしていたが、まさにこれがそのことなのだ。このワーテルロー会戦の勝者が戦争の勝者だと言っているのであって、今、会戦の勝利を(早々と)確信したナポレオンが、戦争に勝ったと宣言しているのに、「フランスが勝利した」では、意味が全然違う。その上、字数も多い。正真正銘、最低の作文だこれは。


コルボーン
 : 「ラ・エ・サントが 敵の手に落ちました」
ウェリントン : 「まずいな アクスブリッジ」 「我々は負ける」
「夜の闇か--」 「ブリュッハーの増援を」


[第44場面 、近衛隊突撃]

ナポレオン : ( ウェリントンは虫の息だ 血を流して・・・
「ウェリントンは 血を流して 虫の息だ」のほうが自然じゃなかろうか。もちろん私は「血を流して」は特に必要ないと思うが。とにかくこれは日本語として変な文章。
古参親衛隊と共に ブリュッセルまで突き進もう
間に「Then」が入っているのだから、これは明らかな誤訳か、さもなくば心意気を表そうとして失敗した下手な日本語文。ま、論外なレベル。プロの仕事じゃない。


ベルトラン
 : 「陛下 先頭は危険です」
こんなこと言ってないし、じゃ、先頭以外なら安全なのかと言いたくなる。こんな簡単なセリフで・・・、正直、ウンザリするような作文。この訳者は作文の才能がないことに早く気づいて、翻訳をすべきだ。
ナポレオン : 「戦死も悪くない」
ラベドワイエール : 「お下がりください」

ウェリントン : 「左翼はあきらめる」
アクスブリッジ :
ウェリントン : 「残りの兵力をここに集めろ!」  「ここだ」
「全部隊をここへ!」
ウェリントン : 「銃砲をすべて敵に向けろ いいな」
典型的な愚訳。いままで敵以外にも銃砲を向けてたのか? ここは「全銃砲で迎え撃て」ということだろう、普通そう考える。「敵に向けろ」と直訳調にしてどうする。
アクスブリッジ : 「名案です」
ここは「わかりました」か「そうしましょう」、「了解」程度だろう。「名案です」は仰々しい。


ゴードン : 「正念場ってとこかな」
こんな物凄い大意の意訳なら誰でも出来る。原文のセリフの意味をまったく表してない。弾のことは一言もなし。あんた本当に翻訳家?と聞きたいね。
「持ちこたえるさ」
ウェリントン : 「ブリュッハーの援軍が 今 来なければ」
「私は土になる」
次のセリフにつなげるための苦心の意訳だと思うが、その次のセリフが間違っている。
ゴードン : 「いい豆が育つ」
ここのパートは確かに難しいところだが、これだとウェリントンが「土」になってもいいってこと?アホか。戦っている最中に味方に死んでもいいなんてこという軍人がどこにいる。このセリフの意味はまったく逆。そもそもたった今、弾丸が不足していると言っただけでウェリントンに睨まれたところなのに、死んでも豆の土壌になれるなんていうと思う方が、どうかしてる。
ウェリントン : 「私が何一つ 関心を持たないのが」 「農業だ」
ここ一連のセリフは誤訳でそれをまとめて説明するが、まず重要なのは、このウェリントンとゴードンのセリフ、二人の会話はかみ合ってない ということだ。そしてそこにユーモアがある。これを見逃すと全体が見えない。ウェリントンがまず最初に、おしまいだ、という意味の言葉を骨をバラバラにされると表現したのを聞いて、ゴードンは、いい豆が堅くて割れないことから、”がんばれ”という意味で「Good beans」と言ったのだが、言葉足らずだったので、ウェリントンには理解できない。何のことか分からないウェリントンのセリフがこれで、農業のことなんか全然知らないからわからない、という切り返しになるわけだ。そこまで全部理解しないとこのセリフは書けないのだが、左と見比べれれば”できる人”と”できない人”の差が明白だと思う・・。


[第45場面 、最終局面]

マルボー将軍 : 「プロイセン軍が森に」
「ブリュッハーです」

ナポレオン : 「ベルリンを燃やすべきだった」
直訳調。しかも脈絡がわからない書き方。もう分からないんだったら、「しまった」だけのほうがマシなんじゃないか。

ブリュッヒャー : 「黒い旗を高く掲げよ 我が兵士たち」
あとのセリフで「我が息子たち」を使ってるのに、なぜここは使わない?意図不明。
「敵を哀れむな 捕虜はいらん」
「ひるむ敵も 容赦なく討つのだ!」
こんなこと言ってないが?
プロシア軍士官 : 「進め」


ブリュッヒャー : 「進め 我が息子たちよ」


[第46場面 、最終局面]

ウェリントン : 「メイトランド 出番だ」

近衛兵C : 「あれを見ろ」
近衛兵D : 「味方か?」
近衛兵E : 「プロイセン軍だ」
近衛兵F : 「まずい 退却しろ」
ここは砲声とだぶるので良く聞こえない。訳者は「Get back ~」と解したらしい。私はこの声の調子がほかとちょっと違うことと、同じ趣旨のセリフが三回も続くひつようがないように思うので別の解釈をしている。
近衛兵G : 「敵の援軍だ 皆殺しにされる」
近衛兵H : 「逃げろ!」


[第47場面 、近衛隊敗北!]

ナポレオン : 「おびえた子供みたいだぞ」
「何を恐れとる」
「それでも軍人か?  参謀総長まで情けない」
「ラ・ベドワイエール  プロイセン軍は - - 」 「遅かった」
「敵の負けだ」
「わかったか」 「ウェリントンは負けた  弱気になるな」
「マレンゴの戦いを思い出せ」
「5時には負けていたが」 「7時には勝利を奪い返した!」
全体として余計なものが多い。人名は不要。左と比べると優劣ははっきり。また文章の切れ目が原文と違いすぎ。


近衛兵I : 「プロシア軍か?」


ネイ
 : 「戦え」 「戦うんだ!」 「戦え」
「戦士は私ひとりか? 共に戦え」
「フランスが泣くぞ」
こんな言い回しある?「日本が泣くぞ」などというセリフを今だかつて聞いたことがないか・・・。他に何とでも言いようがありそうだが、意図不明。
「共に戦え」
「それでも近衛兵か」


午後8時 ラ・エ・サント


ネイ
 : 「あと1時間で敵は破れる」
日本語としてやや怪しい。何で主語を換えた?受動態では一時間経過すれば自然に敵が敗れるかのようだ。実際は、あと一時間頑張れば敵に勝てるということであって、態の変更の失敗例の典型だろう。
「私を知っているか」
「私はネー フランス軍の元帥だ」
フランス兵B : 「プロイセン軍が来ました」
「来ました」ではないと思うが。


フランス兵C : 「古参親衛隊が破れました」



[第48場面 、ウェリントンの勝利]

ウェリントン : 「壮観だ」 「3万人の徒競走だな」
「全隊 進め!」
アクスブリッジ : 「それで どちらの方向へ?」
ウェリントン : 「敵陣へ一直線」


カンブロンヌ
将軍 : 「ひるむな」
ネイ : 「方陣を組め!」 「方陣を組め」


アクスブリッジ
 : 「しまった 足をやられた」
ウェリントン : 「何てことだ 片足がない」
ウェリントン : 「手を貸せ!」
こっちのほうが自然に思えたとしても、字幕者は話の内容を変えてはダメ。実際、映像を見れば、手を借りておらず、逆にそれを制している。


[第49場面 、最後の方陣]

近衛兵J :
カンブロンヌ : 「ひるむな 踏みとどまれ」
ベルトラン : 「陛下 陛下!」
「早くお逃げください」
ナポレオン : 「余は ここで死ぬ この戦場で!」 「兵士と共に」
ラベドワイエール : 「陛下」 「お願いです」
ベルトラン : 「生き延びてください フランスのために」
スルト : 「陛下 我々の負けです」
ナポレオン : 「グルーシはどこだ?」
「どこにいる」
ナポレオン : 「フランス 万歳!」
ラレー : 「生きてください」

カンブロンヌ : 「ひるむな 立ち向かえ」 「方陣を」 「方陣を組め」


コルボーン
 : 「これは殺戮です」
ルビ(殺戮=さつりく)
ウェリントン : 「神に祈ろう」
「最後の戦いであれと」


コルボーン
 : 「フランス人よ」
必ずしもフランス人だけじゃないし、「将兵」ぐらいは必要。ちなみに連合軍側にもフランス人やフランス系はいっぱいた。デランシーはフランス系アメリカ人。
「諸君は最後まで勇敢に戦った」
「ウェリントン公爵閣下は 命を助けてくださる」
「降伏するか?」


カンブロンヌ
 : 「クソくらえ」
ルビ(クソくらえ=メルド)


英国砲兵士官 : 「撃て」


[第50場面 、終焉]

トムリンソンの声 : ( なぜだ  ( なぜ戦う 何のために? ) ( なぜだ ) ( 何のために?

ウェリントン : ( 敗北は むなしいが ) ( 勝っても むなしさが残る
この原文のセリフはウェリントン公爵の非常に有名な名言。よって日本語にも定訳がある。この原文は広く知られた名言であると同時に、誤訳が多いことでも知られる。この訳者の(ものすごい大意の)意訳は、原文の意味を正しく伝えていないし、ニュアンスもない。これは戦争そのものの愚かさ、虚しさを語った言葉であるが、この訳では「なんかーちょっとー後味わりー戦いだったー」といっているかのようだ。しかも敗北は「むなしい」どころの生やさしい話ではない。敗北は文字通り、何もかも奪い去ってしまう。敗北では何も残らない、むなしいなどという余韻さえも残りはしないし、生きていたという証さえ意味を為さなくなるのである。眼下にひろがす死体をまえにいう言葉として、この訳ははなはだ不適切だし、とにかくほどんど誤訳と言っていい最低の訳だ。


ラベドワイエール
 : 「死者の地を出ましょう」


ネイ
: ( プロメテウスのように 岩に鎖でつながれるのです
偉大な過去が 地獄の責め苦にあう場所で
主語と目的語が逆転している。「偉大な過去」が苦しめられるのではなく「偉大な過去」に苦しめられるのであって、最後の最後で考えられない馬鹿な誤訳。こんなイージーなミスして金もらえるとしたら楽な商売ですな。ほとんど詐欺。左の訳文が正解。ま、冗談はさておき、こんな訳文にするところをみると、この訳者は、自分の過去の記憶が自分自身を苦しめるという”感覚”を理解できていないのではなかろうか。要するにこれは一言でいうなら、後悔ということだ。永遠に後悔という名の地獄をさ迷う、それはまさに人生そのものだということもできるだろう。しかし人によって全くこういう感覚とは無縁な人もいるわけで、訳者もその類かもしれない。ここにある訳文を文字通り解釈すれば、かつての偉大な栄光が、人によって傷つけられ、中傷され、蔑まれるということだろう。この訳者は歴史認識とかが念頭にあったのかもしれないが、そんなものは戯言であって、歴史とは事実で構成されるのみで、それを世間がどう評価するかなどということは歴史そのものにとっては全く意味をもたないし、個人レベルでいうならばなおのことだ。特に余生を絶海の孤島で暮らすことを強いられた囚われ人にとって、真の監獄とは過去そのものであって、ナポレオンは過去に心をとらわれた囚人なのである。それがここでネイが言わんとするところだ。









終わり