ライフル銃(施線式小銃)の一般解説

ライフル銃の特徴は、銃腔面に螺旋状の”条溝”という溝が刻まれているところである。 これの凹凸面の突出部”条丘”という部位に、発射の圧力で弾丸が食い込み、溝に沿いスピンがかけられて回転しながら進むため、 ”ジャイロ効果”が起こり、弾道が安定することによって、 その命中精度は溝のない滑腔式に比べて格段に高くなる。

理論上、遊隙が少なければ少ないほどガス圧も増し 銃弾と条溝が密着し強くスピンがかかって、精度は増すので、初期の前装式ライフル銃は口径とほぼ同じ弾丸を使用していた。しかしこれでは装填が滑腔式よりもより困難で、製造コストもかさむために、大量生産が必要な制式小銃としてはマイナスで、ライフル銃は普及していなかった。それで、古くは17世紀頃から、施線式銃は開発され、その兵器としての効果が認識されていたにも関わらず、王侯や猟師の狩猟銃として使用されるだけで、大規模に軍隊で主力銃として使用されることはなかった。しかしフリードリヒ大王など幾人かの先見の明をもった人物は、徐々に部隊に 導入をはじめ、アメリカ独立戦争での散兵戦以後、注目されるようになった。
ナポレオン戦争においても、ライフル銃は狙撃兵の武器として使用され、この時代の技術水準でも精巧に造られたものはかなりの命中精度をもっていた。このためプロシア猟兵などは支給される小銃よりも、自分の所有する高価なライフル銃を好んで用いていた。

ナポレオン戦争後の1850年代になってだが、ミニエの原理 が発見され、口径よりも一回り小さい弾丸の発射も可能となった。その頃には、実包の改良が進み、より効率の良い後装式の発展とともに、滑腔式マスケット銃にとって代わる次代の主力兵器の地位を得て今日に至っている。
ナポレオン戦争当時、ライフル銃は主に産業革命中のイギリスの手によって生産され、各国に輸出されていた。一方、フランスはこの導入に不熱心で外人部隊と近衛隊の一部を除いて正式にライフル装備している部隊はなかった。猟兵の発祥国であるプロシアは、ライフル銃の導入自体は熱心だったが、数は多くはなく、銃の種類も多数に及ぶ。プロシア以外のドイツの領邦にもそれぞれに制式ライフル銃があり、極めて微妙なバリエーションのライフル銃が存在する。

以下①〜④のポイントに分けて、ナポレオン戦争前後の時代のライフル銃の特徴を解説する。




British 95th Rifles

 
[ ① ライフル・マスケットの有効射程と命中精度 ]
プロシア軍が1807年に軍の再建をはかった際、滑腔式マスケット銃と比較する上でも、現行の施線式マスケット(ライフル)銃の命中精度が問題となり、実験が行われた。 この種の実験はマスケット銃でも当時始まったばかりで、あくまでも理論値の 域をでないが、 前ページのマスケット銃のものと比べていくらかの目安になるだろう。
シャルンホルストが実験結果を1813年刊の著書に記しているところによる と以下。



120yds 160yds 240yds
ライフル銃(石膏弾を使用) 68% 48% 31%
ライフル銃(通常のカートリッジを使用) 51% 26% -
ニュープロシア・マスケット(M1809) - 21% -

これによるとライフル銃の命中精度は確かに滑腔式よりも優れていて、 ジャイロ効果は結果に現れているものの、それはまだまだ圧倒的ではないことがわかる。
火薬や銃本体の製造精度や”遊隙”の間隔のより、現実には150メートル以上の距離で良くても1.5倍程度の精度向上というのが関の山で、遠距離では滑腔式マスケット銃の性能を上回るが、近距離ではほとんど誤差はなかった。ライフル銃は装填時間が通常の滑腔式マスケット銃の4/3倍〜2倍かかると言われるため、この程度の命中精度の向上は射撃速度のマイナスを上回れず、その有効性は主力銃としては難があった。このためこの時代のライフル銃はもっぱら狙撃銃として利用されていたのである 。





 
② 各国の主要ライフル銃






① : 1787年型狙撃ライフル [Sharfschutzen-Gewehr M1787]。
全長124cm、口径18.5mm。
プロシア軍狙撃兵の基本装備で、銃剣はスプリング式で左下に装備。およそ一 万挺ほど生産された。

② : ニュークルップ・1810年型イェーガー小銃 [Neue Korps-Jagerbuchse M1810, “Potsdamer Buchse”]。
別名”ポツダム・ライフル”、全長111.9cm、銃身73cm、口径14.65mm。 プロシア軍猟兵の基本装備。”ダブルトリガー・システム”が採用されており 、二つある引き金はセットとなっていて一つを引いた後にもう一つを軽く触るだけで撃鉄が動くため、手ぶれを無くし正確な射撃ができるように設計されている。このライフルは口径も遊隙も小さく、かなりの精密射撃を可能にしていたが、そのために銃身をいつもきれいに掃除しておく必要があり、装填にも時間がかかって連続射撃には不向きだった。

③ : ベーカー・ライフル [Baker rifle]。
ナポレオン戦争の期間でもっとも有名なライフル銃で、イギリス最初の制式ライフル銃。 発明者のエゼキエル・ベーカーがその著書で主張する実験では、銃固定ながら、100ヤードと200ヤードの目標では54発中54発という好成績を上げた。ベーカーは「200ヤードまでは百発百中であり、風がなければ300ヤードでも命中する」と自分の発明品をやや誇大に宣伝していてた。また銃の性能を十分に発揮させるために発射時にしっかりと固定させることが重要であると指摘して、 膝や帽子、つま先などを支えとして利用する独特の射撃術も合わせて考案し、推奨した。
こうした優れた性能から、1800年から1815年までの間にベーカー・ライフルは3万挺以上生産され、多種多様なバージョンが存在する。銃身20インチ~30インチ、銃口0.615 インチ~0.70インチまで。 緑色の軍服で”バッタ”の愛称をもつ第95ライフル連隊の使用が有名である。







 
[ ③ ライフル解説補足: ミニエの原理 ]
フランス陸軍のミニエが発見したこの原理は、1850年代の軍用小火器に革命的変化をもたらした。

この方式の特徴は、従来では弾丸(A)が銃腔にぴったり 密着していないと、弾 丸にスピンがかからずに効果が得られなかったのが、この方式では口径よりも小型の弾丸でもジャイロ効果が得られる点にある。
その原理は、中空になっている 弾底部に入っている鉄の殻(B)が、発射薬(C) の爆発によって中空部に押し込まれ、その圧力で弾丸の裾の部分が”条溝”(D)に密着するというものである。
この圧力による金属の膨張という現象を利用するという発明で、ジャイロ効果を減少させずに遊隙をある程度確保することができるようになり、前装式ライフル銃の大きな欠点であった装填難は解消され、 滑腔式マスケット銃と 同じよ うに装填が可能になった。 この新方式はほとんどの国ですぐに採用されたが、後に弾丸の改良により、 中に入れる殻は必要なくなった。
後に後装式が主流になってからも、この原理は基本的に利用されている。





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