[ ② 平射射撃 (DIRECT FIRE or FEU A PLEIN FOUET) ] 平射射撃とは、簡単に言えば、その大砲の有効射程内で、直射距離よりも遠い目標を狙った照準射撃のことである。これは(照準線と二度目に交差する)SPBPの地点よりも遠いわけであるから、目標の射程に応じて砲身(あるいは大砲全体)に角度をつけてやる必要があるが、ここが直射と平射の相違点である。平射ではまず砲兵士官が目標との距離を測り、その地点まで砲弾を送り込むのに必要なだけの仰角を計算しなければならなかった。
距離の算定は、当時すでに三角測量や視距測量、測距儀も発明されていたが、ナポレオン戦争当時の野戦ではこれらが用いられることは稀で、単なる目測か、最初に目測で発砲して弾着を確認後、そこから修正していくという方法(夾叉法)、砲兵士官が敵の大砲の砲撃時の閃光から轟音が聞こえるまでの秒数を数え、それをおよその常温での音速173トワーズ(369ヤード)とかけて距離を測るという方法がとられていた。
これはもともと有効射程が短く、射程を長くすればするほど大砲の構造上、狙いがアバウトになるために、照準の付けやすい中距離での砲撃が好まれたためと、城塞攻撃のように長期間包囲攻撃するならいざ知らず、野戦の場合には緻密な砲撃よりも、むしろ素早い砲撃、素早い再照準のほうに重点が置かれたためで、また標的となるものが通常は歩兵部隊や騎兵部隊といった大きな集団であることが多かったために、正確であることはあまり必要とされなかったという背景もある。ただし例外は敵の砲兵隊に対して砲撃するときで、この場合には有効な砲撃にするためには高い正確性を要求された。
[ ④ 曲射射撃(CURVED FIRE or HIGH TRAJECTORY FIRE)] 曲射射撃は臼砲や榴弾砲で行われていた砲撃法で、45度程度の仰角をもたせて砲撃された。ただし英軍の榴弾砲は30度、ロシア軍の長砲身砲では20度とすることになっていた。これらの大砲は低角度でもカノン砲よりも砲弾の速度が遅いので、弾道のカーブはより急角度となった。
ただ榴弾を使った場合でも、その有効性が一部の識者の間で指摘されていたにも関わらず、障害物越しの砲撃でなければ曲射で対人攻撃することはあまりなく、家屋や城塞に対する破壊に主に使用された。 野戦での対人攻撃としての曲射射撃が一般的になるのは、第一世界大戦においてドイツ軍の榴弾砲が英軍の18ポンド砲を凌駕したのがきっかけであり、ナポレオン戦争時には榴弾の性能が低かったことと、射程が短すぎたこともあって、榴弾砲は曲射砲とはいっても実際には平射射撃で砲撃する事の方が多かったようだ。また臼砲は命中精度が低すぎて、元来、対人攻撃向きではなかった。