ポレオン・ボナパルトはその軍事・政治における非凡な才能と革命思想で大 衆の心を掴み、 わずか数年の内にフランス皇帝の座を手中におさめて、 全欧州 の覇者へと成り上がった。
だが15年続いた勝利の日々は、1812年に終わりを告げ、ロシア戦役で大 敗を喫した。翌1813年には、オーストリア、ロシア、プロシア、イギリスの 連合軍を前にライプチヒで敗退し、次第に追いつめられていったナポレオンは、 ついにパリ目前で運命の日を待つことになった。

[第1場面、退位するナポレオン]

屋内:フォンテーヌブロー宮殿

6人の元帥、軍靴の歩調を合わせて廊下を足早に進んでくる。門番の近衛兵、 軍靴を鳴らして一礼。元帥ら、皇帝の居る部屋に入る。皇帝ナポレオン、こちら に背を向け、窓辺に腕を後に組んで立っている。

[ 編者注 ] 実際には4月6日と20日に起こった別々の出来事だが、同じ 日のこととして表現してある。史実通りならば、ベルティエはナポレオンと部屋 に居たはずで、まず3人が、ついで2人が別々にやってくる。史実のメンバーは ネイ、モンセー、ルフェーヴルと、マクドナル、ウディノそしてベルティエ。 映画では判別できないが、ネイ、スルト、ベルティエ、マクドナル、ウディノ 、サン=シールとなっている。史実においてはこのときスルトはトゥールーズで ウェリントン軍と対峙し、サン=シールはドレスデンで降伏して捕虜になってい た。

フォンテーヌブロー宮殿、1814年4月20日水曜

ミシェル・ネイ元帥 : 「もうおしまいです」
(ダン・オヘリィ)
ニコラ・スルト元帥 : 「敗北です」
(アイヴォ・ガラーニ)

ネイ : 「20年間の栄光も終わりです」
スルト : 「パリも救えません」
ネイ : 「オーストリア軍が・・・ ベルサイユに入りました」

ナポレオン、ゆっくり向きを変えはじめる。

ネイ : 「コサック兵もセーヌ河に・・・」

ナポレオン、ネイの方に振り向く。 (丸い眼鏡をつけている。

ネイ : 「モンマルトルにはプロシア軍が・・・」
スルト : 「四カ国の四つの軍隊が四面から・・・」

ナポレオンは疲れた様子で静かに椅子に座り、帽子を外す。

ネイ : 「ご退位を!」
スルト : 「エルバ島に千名の部下と住むことを敵は認めています」 「これ は名誉ある追放です」

[ 編者注 ] 実際に認められたのは4百名の部下で後に6百名まで拡大された。

ネイ : 「他に道はありません」
ウディノ元帥 : 「陛下、ご署名を」
(ジャン・ルイ)

ナポレオンは眼鏡を外し、元帥を見上げた後、目をつぶる。

ナポレオン : 「なぜだ?」
(ロッド・スタイガー)
ナポレオン : 「お前たちの保身のためか?」
「今の地位は私のお陰だぞ」

ネイ : 「退位を」

ナポレオンは苛立ち気に再び目を開く。

ナポレオン : 「聞け、ネイ」
「私が最も軽蔑するのは、・・・忘恩だ」

(沈黙)

ナポレオン : 「どうすればいい?」 「何を?」
「ロシアに講和を求めたが拒否された」
「手があるか?」 「どうすればいい?・・・どうすれば?」
「戦うのみだ!」

ナポレオンは、突然、立ち上がって机に近づき、机の上に広げられた地図を指 し示し、興奮してまくし立てた。

ナポレオン : 「パリを守り、オーストリアと休戦しよう。イタリアを背にして頑張り 、大動員で兵力を増強しよう」
マクドナル元帥 : 「動員は不可能です」
(ジュリアーノ・ラファレッリ)
ネイ : 「パリを戦火で失う恐れが・・」

[ 映画字幕 ] ↑ 「モスクワの大敗が響いています」


サン=シール元帥 : 「ウェリントンも・・・」
(フィリッポー・フェレゴ)
ナポレオン : 「ウェリントン?」 「なぜ彼の名がいつも出る?」

ナポレオンはため息をつくと、頭を抱えた。

ナポレオン : 「スペインで敗れたから怖いのか?」
スルト : 「国民も従いません」

[ 編者注 ] スルトとネイは半島戦争でウェリントンに敗北を喫した。 ここ では敢えてスルトは皇帝の問いに答えずにはぐらかしている。 ちなみにこのセリフは元来はネイのもので、史実ではこの発言のために皇帝と怒鳴り合いの口論 をすることになる。

ナポレオン : 「1度勝利すれば我先について来るさ」
ネイ : 「無理です」 「王座をお諦めを」

ナポレオン、鼻で笑って。

ナポレオン : 「ネイ、王座だと」 「知らんのか?」
「王座など華美な家具にすぎない」
「重要なのはその背後だ」
「私の頭脳、野望、欲望、希望、・・・」 「想像力、そして特に・・・私の意志だ」
ナポレオン : 「信じられんぞ」
「全員で書類を突きつけて、『ご退位を』だと」

突然絶叫して。

ナポレオン「いやだ!」 「断じて、するものか!」

[ 映画字幕 ] ↑ 「断じて、するものか!」 「いやだ!」

(沈黙)

ナポレオン、うな垂れて椅子に腰を下ろす。その時、副官がつかつかと歩み寄 り、ナポレオンに何やら耳打ちする。 ナポレオンは少しの間、考えて。

ナポレオン : 「全軍で?」

皇帝の問いかけに、副官は黙ってうなずく。
ナポレオンは悪い知らせに呆然自失となる。

ナポレオン : 「いつだ?」
副官ラベドワイエール : 「今朝です」
(フィリップ・フォーケ)

[ 編者注 ] この時、ラベドワイエールは皇帝の副官ではなかった。

ナポレオン : (万事休すだ) (署名する)
(エルバ。 なぜエルバに)

元帥たちが見守るなか、ナポレオンは憮然として退位文書にサインして、とぼ とぼと部屋をでていく。

ラベドワイエール : 「マルモン元帥が降伏した」
「最後の望みだった」



[第2場面 、近衛隊との別れ]

屋外 : フォンテーヌブロー宮殿の白馬の庭

エルバ島への追放を前に、ナポレオンは長年連れ添った老近衛隊の老兵たちと 最後の別れを告げるために、閲兵を行う。
すでに中庭には近衛兵が整列しており、真ん中に鷲の軍旗が掲げられている。 ナポレオンは、中央に進み出ると、この献身的な老兵たちに語り始めた。

ナポレオン : 「将兵よ!」
「近衛連隊よ!」
「20年間ご苦労だった」
「ついにきた...諸君と...別れる日が」
「フランスは敗れたが、」
「私を忘れんでくれ」
「諸君を愛しているが、」
「全員を抱擁はできん」
ナポレオン : 「このキスで・・」 「覚えていてほしい」
「さようなら将兵よ! ・・・私の息子たちよ!・・・」
「さようなら・・・ 私の子供たち

近衛隊の将兵たちの多くが涙を流し、主人との別れを悲しむ。 ナポレオン、軍旗に抱擁する。
それから馬車に乗って去っていく。

1814年5月、地中海の小島 エルバへ


[タイトルとオープニング曲"Ritorno dall'Elba"]

暗闇の中、船上で波に揺られて、ナポレオンはじっと対岸を眺めている。彼は 輝きを取り戻して流謫地から戻った。今、彼の最後の伝説の物語が始まったので ある。

10ヶ月後、ナポレオンは千名足らずの部下を連れ
エルバを脱出 大陸に上陸した


[第3場面 、怪物の脱出]

屋内 : チュイルリー宮殿

チュイルリー宮殿、1815年3月1日

正装の三人の男が慌てて階段を上がってくる。
息せき切って部屋に駆け込む 。
そこでは国王とその家族、側近がくつろいでいた。

侍従ヴィトロル男爵 : 「陛下、怪物が・・エルバを脱出しました」
(カミロ・アンジェリーニ・ロタ)

侍従は一報を伝える手紙を大臣に手渡す。

スルト : 「今が捕らえる好機です

[ 映画字幕 ] ↑ 「我が国に上陸しました」

国王ルイ18世 : 「大騒ぎする必要はまだない」
(オーソン・ウェールズ)
ルイ18世 : 「ナポレオンの部下は千名だ」
「危険ではない。まだな」
「スルト元帥、パリの軍を指揮したまえ」
「ネイ元帥」 「狼男を迎え撃ちたまえ」

周囲がネイのただならぬ様子に気づく。

ルイ18世 : 「崇拝していたな」
ネイ : 「はい」 「昔は」
「しかし鉄のオリで連行します」

元帥たち一礼して、退出。

ルイ18世 : 「大げさでいかんな」
「軍人はみんなだ」
「鉄のオリか」 「・・・余計なことを」



[第4場面 、諸君の皇帝はここにいるぞ]

屋外 : グルノーブル近郊のラフレーの平原

一本の道をナポレオンを先頭に近衛隊が向かってくる。
行く手には国王側の追討部隊が待ち構えていた。

[ 編者注 ] 1815年3月7日、アルプスを越えてフランス入りしたナポレオンは 、グルノーブル近郊で初めて国王側の部隊と遭遇する。このとき迎え撃ったのは 第五戦列歩兵連隊で、ネイ元帥ではなく、マルシャン将軍が指揮を取っていた。ネイとナポレオンが再び出会うのは18日のオセールにて。

近衛兵A : 「ひるむな」
近衛兵B : 「前進あるのみだ」
近衛士官 : 「第二縦隊、駆け足、右翼へ移れ!」

両軍対峙。


連隊長代理ドレッサール大佐 : 「構え!」
(フランコ・ファンタジア)

近衛隊は対抗してマスケット銃を構えようとするが、ナポレオンがそれを手で 制す。そして一人で敵の銃口の前に進み出て、しっかりと後ろ手を組む。

ナポレオン : 「将兵諸君」

[ 編者注 ] 第五戦列歩兵連隊に対する呼び掛けであることを示している。

「私がわかるか?」
「もし、・・ 皇帝を殺したいなら ・・」

ナポレオン、鼻で笑う。

ナポレオン : 「・・・ 私はここだ」

ドレッサール大佐 : 「撃て!」

(沈黙)


誰一人、発砲せず、異様な沈黙があたりを包む。そして突然、歓声が上がる。

歓声 : 「皇帝万歳!」

ナポレオンは歓声につつまれ、それに笑顔で手を上げて答える。

そしてそのままネイ元 帥の前に来る。 気まずい沈黙があって、ネイはサーベルを抜いて投げ捨て、恭順 の意を示す。ナポレオンは厳しい顔でサーベルを返す。

ナポレオン : 「私に従え」

ネイは静かにうなずく。
再びあたりは歓声につつまれ、それはいつまでも続い た。




[第5場面 、皇帝の帰還]

屋外 : グルノーブル(あるいはリヨン)の街頭

布告 : 「余はフランスの名誉を回復するために戻った」
「余はフランスの権利が侵されるのを見た」
「余の勝利は不動である」
「余の鷲は空高く舞いあがり、ノートルダム寺院の塔で翼を休める」

屋内 : 市庁舎

ナポレオンが従者に手伝われて服装を整えている。
ナポレオンは帽子をかぶり、ネイを見るとおどけてたずねた。

ナポレオン : 「いいか?」

ネイは微笑してうなずく。

ナポレオン : 「一緒にこい」

屋外 : 市庁舎のバルコニー

市民、革命歌「ア・サ・イラ」を唱っている。口々にナポレオンの名を呼んで 喝采を送っている。
ナポレオン、バルコニーから市民たちの歓声に帽子を振って応える。

ナポレオン : 「余は戻った」

市民は喝采を上げる。

ナポレオン : 「フランスの幸せのために戻った」

両足を失った年老いた退役兵が感激してはしゃぎまわっている。他の人々も口 々に訴えかける;

退役兵 : 「ブルボン家は倒せ!」
人々A : 「絞首刑にしろ!」

得意満面で。

ナポレオン : 「余はフランスでフランスは余である!」

市民の熱狂は最高潮に達する。
あの退役兵が擲弾兵に担ぎ上げられ、彼は叫ぶ;

退役兵 : 「ナポレオンが戻ってくれた。 万歳!ナポレオン」

一方、バルコニーでは。

ナポレオン : 「お前は私に退位を勧めたな」
ネイ : 「フランスのためでした」
ナポレオン : 「国王に約束したそうだな」
ネイ : 「はい」
ナポレオン : 「鉄のオリ?」
ネイ : 「はい」
ナポレオン : 「詳しく説明しろ」
ネイ : 「あなたを鉄のオリで連行する、と」

ナポレオン、苦笑して。

ナポレオン : 「聞いた通りだ」

ナポレオン、再び民衆の方に向かって。

ナポレオン : 「デブの国王を追放しよう!」
「フランスの名誉を傷つけた」

市民が国王への罵声を上げ、ルイ18世の人形が燃やされる。

人々A : 「絞首刑にしろ!」


[第6場面 、ブルボン家の逃亡]

屋内 : チュイルリー宮殿

前途を悲観してうな垂れた国王が階段を降りてくる。見送りにきた国王家族た ちも、不運を嘆いている。

ルイ18世 : 「民衆は黙って余を行かせるだろう」
「彼を迎えたように」


国王は憮然としたまま馬車に乗り込んで、宮殿をあとにする。


[第7場面 、皇帝万歳]

通りは民衆の歓呼の渦に包まれている。皇帝の乗る馬車には民衆が群がり、熱 烈な歓迎ぶりである。

人々C : 「戻った!皇帝が戻った」
人々D : 「フランスは生き返る」
人々E : 「皇帝万歳!」

民衆は歌い踊って喜びを表している。

人々F : 「皇帝が栄光を取り戻してくれる」

ナポレオンは馬車を降り、人々に担ぎ上げられて宮殿に入っていく。

人々G : 「迎えよう、英雄を祖国へ!」

女性市民 : 「ナポレオン万歳!」

そういうと彼女は花を投げた。

人々は口々に「ナポレオン万歳」と合唱し、そ れはいつまでも続いた。


[第8場面 、総参謀長の任命]

屋内 : チュイルリー宮殿

宮廷では、廷臣や士官や貴族、貴婦人たちが正装して皇帝を出迎える。

ナポレオン : 「コレンクール、モリエン、モレー、フーシェ」

[ 編者注 ] 連呼されている人物はすべて大臣。 なおグランクールと言って いるような感じもするが、キャストから考えてもコレンクールを間違って発音しているのではないかと思う。

「30分後に会議をひらくぞ」
ジョゼフ・フーシェ : 「議題は?」
(ロドルフォ・ロディ)

ナポレオン :「政府が無いままでは困るからな

[ 映画字幕 ] ↑ 「新政権の閣僚を決める」

ナポレオンは皮肉っぽく笑う。

ナポレオン : 「ドルーオ」
「言っておくが、最も尊いものは忠誠だ」

ネイの方を向いて。

「忠誠だ!」
ナポレオン : 「君にはそれがある」
「世にも珍しい高潔な男だ」 「協力してくれ」
ドルーオ将軍 : 「喜んで」
(ジャンニ・ガルコ)

[ 編者注 ] 高徳の人物で知られる将軍で、ナポレオンの信頼厚い、近衛砲兵 隊司令官。エルバ島総督でもある。

ナポレオン : 「スルト」

ナポレオン、壁際で緊張した面持ちで立っていたスルト元帥を手招きする。

ナポレオン : 「君も協力を」
「もう国王の陸相ではないな」
スルト : 「もちろんです」
ナポレオン : 「それを忘れるな」

ざわめく室内。

ナポレオン : 「静かに!」
「参謀総長だ」

[ 編者注 ] 名参謀総長ベルティエ元帥はナポレオンの勘気がとけずに追放の憂き目にあって自殺した。スルトの参謀総長への就任はダヴーが推薦したと言われる が、後世議論を生んだ人選であった。

スルト : 「お受けします」
ナポレオン : 「終わりよければすべてよしだ」


[第9場面 、外交声明]

屋内 : チュイルリー宮殿の書斎

ナポレオンは秘書たちを前に口述筆記している。

ナポレオン : 「マダム・・・」 「”ご子息は亡くなりました”」
「”閲兵中に落馬してです”」

ナポレオンは突然別の書簡に話題を変えた。

ナポレオン : 「いやいや、それではまずい」
「兵隊が集まらなくなる」
「人心をつかむんだ」

[ 編者注 ] 長年意味がわからなかったが、Mussetは人名らしい。ワンシーンはいる秘書が話の切れ目を意味しているようだ。よって前後の会話とは無関係の話題。この文章は「駄目だ駄目だ、ミュッセ大佐は解任。もっと徴集兵が必要だ。もう一度、徴兵をやり直せ。署名して送れ」が直訳。

ナポレオン : 「”ご子息は勇敢でした”」
「”お気の毒です”」
「”運命の過失でした”」

ナポレオンは別の手紙に移る。

ナポレオン : 「”アレクシス大公へ”」

[ 編者注 ] 人物不明。おそらくロシアの大公。

「私は王冠を奪ったのではない」 「見つけたのだ」
「どぶの中で!」 「そして・・・」
「拾い上げた!」
「私の剣で」 「国民だった」
「民衆だった」 「頭に載せたのは」

と言って、ナポレオンは自分の頭の上に帝冠を掲げ、載せるしぐさをして見せた。

ナポレオン : 「国を救うものは、法を犯したことにはならない

[ 映画字幕 ] ↑ 「国を救うものが法を犯してはいかん」

ナポレオンはしばし休息をとった。薬を口に含んで、水で流し込む。

ナポレオン : 「”愛する妻へ”」
「君は我が敵、オーストリア皇帝の娘だ」
「返してくれ」
「私の最高の財産・・・」 「息子を」

ナポレオンは歩き回って、暖炉の側の床に広げられた地図の上に横になって、 さらに別の手紙に移った。

ナポレオン : 「”英国摂政皇太子へ”」

[ 編者注 ] のちの国王ジョージ4世のこと。父である痴呆者”百姓ジョージ ”の晩年は摂政皇太子時代として知られ、同時にこの皇太子は最も不人気の人物 としても有名。彼は後にワーテルローの騎兵突撃で自分が勇猛果敢に活躍したと いう大嘘を吹聴してウェリントンを怒らせた。

「我々は20年間、敵対してきましたが、」
「私の今の希望は平和です」
「平和」
「しかるにウェリントンの存在は・・」

ここでナポレオンは突然、話を打ち切って、別のことに思いをはせる。

ナポレオン : 「・・・・」
「息子・・・ それは私の未来だが、」
「敵に捕らえられているより、死んだ方がいい」


[第10場面 、宣戦布告]

屋内 : チュイルリー宮殿の回廊

回廊に幕僚たちが立って待っている。そこにナポレオンが外交文書をもってや ってくる。

ナポレオン : 「『私はヨーロッパの敵だ』と彼等は決めつけて、私に宣戦した」
ラベドワイエール将軍 : 「陛下のご威光が増しました」

[ 編者注 ] ラベドワイエールは帰還後に昇進した。

ナポレオンは笑って。

ナポレオン : 「威光か」
「彼等は法を捻じ曲げた」
「道化に私を殺させようとした」

[ 編者注 ] 連合国とブルボン家は、ナポレオンを法の外に置くことを宣言した 。つまり暗殺を奨励したわけである。

話をかえて。

ナポレオン : 「ウェリントンは?」
スルト : 「まだブリュッセルです」

[ 編者注 ] ベルギーの首都。当時は連合軍の暫定的な占領下にあり、その司 令部があった。後にオレンジ公を国王に擁くオランダ王国の一部となるが、後に分離独立した。

ナポレオン : 「ブリュッヒャーと一緒か・・」
ネイ : 「戦争を始めた張本人です」
「思い知らせてやりましょう」
ナポレオン :「そうとも」
「ウェリントンが死ぬまで、この戦争は終わらんぞ」

[ 編者注 ] 映画においてことさらナポレオンのウェリントンへの敵意を強調 しているが、実のところあまり彼のことを知らず、さほど興味を示していなかっ た。


[第11場面 、時は来たれり ]

屋内 : チュイルリー宮殿の浴室

普通の部屋に浴槽を置いただけの、当時流行の様式の浴室で、ナポレオンはタ オルをかけ、半身浴をして眠っている。そこに従僕が入ってきて小声で来客を告 げる。

従僕コンスタン : 「スルト元帥です。急用だそうで・・」
(オラッジオ・オルランド)

[ 編者注 ] この時、もうすでにコンスタンは皇帝の従僕ではなかった。

ナポレオン : 「いつもだ」

ナポレオンはそう言うと、眠そうにまた目を閉じたが、従僕が指示を待ってい ることに気づいた。

ナポレオン : 「通せ」

スルトが入ってくる。

スルト : 「イギリス軍とプロシア軍が離れました」
ナポレオン : 「離れた?」
スルト : 「はい」
ナポレオン : 「離れたか」
スルト : 「ええ。」

スルトは笑顔で答えた。

ナポレオン : 「歴史が何というかな」
「プロシア軍を押し退け、イギリス軍を攻撃しよう」
「面白くなった」
スルト : 「はい」
ナポレオン : 「そうとうも・・」
「マレンゴの戦いに似ている」

[ 編者注 ] 実際にはこのときの状況はまったくマレンゴには似ていないが、 後の伏線として映画的にわざと織り込んである。

「ご苦労だった」

スルトは敬礼して、部屋を出て行く。

ナポレオン : (だが当時、私は若かった)

ナポレオンは悪い考えを振り払うようにまた目をつぶった。


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