[第28場面 、芝居がかった序幕]

屋外 : ラ・ベル・アリアンスの南

フランス軍部隊が戦闘配置につきつつある。馬が嘶き、兵士たちは泥道を進み 、皇帝の横を通ると彼らは口々に「皇帝万歳」と叫ぶ。
しかしナポレオンは折りたたみ椅子に座ったまま、うつむいて何やら考え事を しているふうである。


屋外 : モン・サン・ジャン高地

一方、ウェリントンは木の下で新聞をかぶって眠っていた。たまりかねたアク スブリッジが咳払いをして彼を起こす。

アクスブリッジ : 「閣下」

ウェリントン、起きる。

ウェリントン : 「アクスブリッジ」
アクスブリッジ : 「私は副司令官ですから、作戦をお教えを」
「万一に備えて」
ウェリントン : 「勝つことだ」
アクスブリッジ : 「!」 「・・・」


屋外 : モン・サン・ジャン高地

フランス軍の見事な機動を英軍の将軍たちがモン・サン・ジャン高地から眺め ている。

ウェリントン : 「芝居かかった連中だ。・・音楽に旗か」
「・・・だが見事だ」
ウェリントン : 「最初の戦闘が派手で君は運がいい」


屋外 : ラ・ベル・アリアンスの南

急にフランス軍から歓声があがり、遠くに白馬に乗ったナポレオンが登場する 。

[ 編者注 ] この白馬はマレンゴという名のお気に入りの乗馬だった。


屋外 : モン・サン・ジャン高地

ヘイ : 「閣下!」
「道の近くを見てください」
「白い馬に乗っています」
「怪物です」

ウェリントン、望遠鏡で確認する。

ウェリントン : 「あれが、ヨーロッパ最大の盗賊か」
マーサー : 「ナポレオンは射程内です。砲撃をお許しください」
ウェリントン : 「・・・いかん!」

大尉はばつの悪い顔で、敬礼してその場を去る。

ウェリントン : 「総司令官同士がするようなことではない」

そのとき誰からとなく、自然発生的に英連合軍の兵士たちが歌いはじめる。

歌 : 「ボナパルトは戦士だった プロシアと戦った ロシアと戦った ・・・ (繰り返 し)」

[ 編者注 ] これは「Boney was a warrior」というタイトルの歌で、兵隊の歌なので様々なバージョンがある。一般的にはモスクワ、エルバ、ワーテルロー、セントヘレナなどが登場する歌詞で、ボニー=ボナパルトは戦士だったが、ワーテルローで戦士(英兵)に会って逃げ帰り、ついに捕虜になって、失意のうちに死んだという内容。

ウェリントン : 「戦争も歌の対象になるのか」
デランシー : 「黙らせますか?」
ウェリントン : 「いや、いい。放っておけ」
「時間稼ぎになるなら、今朝は何でもいい」
「ばか騒ぎは嫌いだが、妥協も時には必要だ」
「士気を煽れ」

デランシーは馬を駆って兵士たちの前にでると、叫んだ。

デランシー : 「フランスの強敵は誰だ?」
兵隊の合唱 : 「ウェリントン!」
英軍兵士I : 「カギ鼻の名将軍は?」
兵隊の合唱 : 「ウェリントン!」

ウェリントン : 「自己宣伝に白馬など古臭い」

ウェリントン、兵士たちの前を悠然と進む。



英軍兵士J : 「敵が一目置くのは?」
兵隊の合唱 : 「ウェリントン!」
英軍兵士K : 「フランスの恐怖の的は?」
兵隊の合唱 : 「ウェリントン!」
英軍兵士L : 「ナポレオンをいじめるのは?」
兵隊の合唱 : 「ウェリントン!」
英軍兵士M : 「フランスを撃退するのは?」
兵隊の合唱 : 「ウェリントン!」
英軍兵士N : 「カギ鼻の名将軍は?」
兵隊の合唱 : 「ウェリントン!」
英軍兵士O : 「フランスの強敵は誰だ?」
兵隊の合唱 : 「ウェリントン!」
英軍兵士P : 「ナポレオンを蹴っ飛ばすのは?」
兵隊の合唱 : 「ウェリントン!!!」

[ 編者注 ] このどのみち、掛け合いは字幕の字数に収まりきらないので、ド ギツイ表現は原文を読んで理解して欲しい。




[第29場面 、ナポレオンの作戦]

屋外 : ラ・ベル・アリアンスの南

ナポレオンは馬から下りたが、その途端にぬかるみに足を取られる。

ナポレオン : 「早く出してくれ」

ナポレオン、側近に抱えあげられて、ぬかるみからでる。

ナポレオン : (この泥にやられるぞ)
(恐るべき敵は自然だ)

スルト : 「命令書です」
ナポレオン : 「トロイヤ戦争より多いな」

ナポレオン、望遠鏡で敵陣を眺めて。

ナポレオン : 「砲兵隊の位置から見て、敵の重点は右翼だが、」
「恐れているのも右翼だ」
「よし」
「右翼を攻めよう」
「陽動作戦でいこう」
「右翼を攻撃すれば、主力が右翼に回る」
「そうしたら中央からイギリス貴族をやっつけよう」


[第30場面 、今日の獲物に]

屋外 : モン・サン・ジャン高地

ウェリントンと幕僚たちはグラスを片手に今日の勝利を願って乾杯する。

ウェリントン : 「諸君」 「今日の獲物に」

ウェリントン : 「軍服の仕立てがいい」
ヘイ : 「ジェームズ通りのダンモア社です」
ウェリントン : 「スタイルのいい方が敵も喜ぶ」

ウェリントン、悪戯っぽく、一人むさ苦しい格好のピクトンをちらっと見る。

ピクトン : 「・・・」


[第31場面 、息子]

屋外 : ラ・ベル・アリアンスの南

ナポレオン、折り畳み椅子に座って、息子の小さな肖像画を眺めている。

ナポレオン : 「ラベドワイエール」
ラベドワイエール : 「はい」
ナポレオン : 「子供は?」
ラベドワイエール : 「息子が一人」
「まだブーツ位の身長です」
ナポレオン : 「ここにいたらいいと思うか?」
ラベドワイエール : 「はい」
ナポレオン : 「なぜ?」
ラベドワイエール : 「陛下に会えます」

ナポレオン、微笑。

ナポレオン : 「私に?」
「私にも息子が・・」
「死ぬほど会いたい。だがここへ呼びたいとは思わない」
「今日の戦闘は見せたくない。・・・」



ナポレオンは立ち上がり、肖像画を机に置くと、後ろ手に組んで歩いていった 。
戦場は両軍とも配置を終えて、命令を待っている。嵐の前の静けさという具合 に静まりかえっている。

ナポレオン : 「敵の主力は丘のむこうだ。前面しか見せておらん」 「なかなか抜 け目ない」

ナポレオン : 「あそこから攻撃しよう。ウーゴーモンだ」

[ 編者注 ] ウーゴーモンは壊れかかった壁と果樹園で囲まれた城館で、英軍 右翼の強力な前哨地点であった。ナポレオンはここを攻撃することで敵の予備部 隊を誘きだそうと考えていた。




[第32場面 、 戦闘開始]

屋外 : モン・サン・ジャン高地

フランス軍から一発の砲声が轟いて、それを合図に砲兵隊が一斉射撃。そして それに呼応するかたちで両軍が激しい砲撃戦を開始した。戦場は白煙につつまれ 、轟音が轟く。

ウェリントン : 「舞踏会のはじまりだ」

デランシーは懐中時計を見て、戦闘の開始時刻を皆に告げる。

デランシー : 「11時35分」

他の将軍たちも自分の懐中時計で確認する。

ウェリントン : 「諸君、部署へ戻り給え」

若干の幕僚を残して、将軍たち部署に戻っていく。

屋外 : モン・サン・ジャン高地の上り坂

猛烈な予備砲火の後、レイユ将軍の第Ⅱ軍団の左翼がウーゴーモンに向けて前 進を開始した。(この攻撃は第6師団長の皇弟ジェローム・ボナパルトと第9師 団長のフォア将軍が担当した。)

[ 編者注 ] この会戦でジェロームは軽歩兵連隊を中心とした第6師団長であ った。 彼はこの日のウーゴーモン攻撃のほとんどを指揮したが、結果は芳しくな かった。大苦戦することになって、無用な兵力を浪費し、敗因の一つをつくった 。

仏軍士官 : 「大隊、前へ進め!」


[第33場面 、 ウーゴーモン]

屋外 : ウーゴーモン周辺

フランス軍歩兵の隊列が、砲火のなかを果樹園を通ってウーゴーモンへと進む。

ウーゴーモン、11時55分

果樹園を防衛するナッソー兵やハノーバー兵は2度、フランス軍の攻撃を撃退したが 、次第に押されて城館まで退いた。 しかしここにはすでに英近衛兵からなる分遣 隊が組織されて配置についており、フランス軍は6フィートの城壁にも阻まれて 、苦戦を強いられることになった。

屋外 : モン・サン・ジャン高地

デランシー慌てて馬で駆けてくる。

デランシー : 「右翼が崩れました。至急、援軍を」
ウェリントン : 「敵の狙いは今の攻撃方向とは違う」
デランシー : 「第95連隊の移動を」
ウェリントン : 「敵から逃げ回りたくない」
「時間は十分にある」

屋外 : ウーゴーモン

ウーゴーモン、12時10分

ウーゴーモンではまだ城壁ごしの戦闘が続いていた。英近衛兵は健闘し、騎馬 砲兵隊に支援されて、城館を堅守していた。フランス軍は次から次へと新手を投 入したが、状況は好転しない。

[ 編者注 ] ジェロームのまずい指揮で、戦闘はいたずらに拡大し、隣接する フォア師団、ついには第Ⅱ軍団全体を巻き込んでしまう。ナポレオンは3時頃に この事態に気づいて驚き、ケレルマンの騎馬砲兵を最前線に投入するように命じ るが、すでに手後れであった。結局、会戦が終わるまで、ウーゴーモンは英軍に よって保持されることになる。


[第34場面 、正面攻撃 ]

屋外 : ラ・ベル・アリアンス

ナポレオンが近衛猟騎兵の肩に望遠鏡を固定して戦況を伺っている。彼はウェ リントンを見くびりすぎたと後悔していた。

ナポレオン : (ウェリントンの奴め、 あそこを一歩も動かん)
(尊敬に値する点が2つある。 用心深さ、そして勇気だ)

腹立ちげに望遠鏡を折り畳んだ。

ナポレオン : 「敵は動かん。ピクトンの部隊に猛砲撃を」

屋外 : ワーヴル道路の近辺

フランス軍は、24門の12ポンド砲を含む、84門の大砲を中央に集め、敵 の戦線に集中砲火を始めた。丘の手前側の英軍最前線に陣取るバイランド混成旅 団には大きな損害がでていたが、湿った大地は砲弾をバウンドせず、丘の向こう 側に陣取る英軍主力部隊に対しては猛砲撃の効果も限定的なものに留まっていた 。

ウェリントンが護衛を引き連れて、ピクトン師団を訪れる。

ウェリントン : 「君の部隊を狙い出したぞ」

ピクトン、飛んでくる砲弾を気にせず、葉巻をふかして。

ピクトン : 「砲兵隊の移動が速い」
ウェリントン : 「拳銃の手軽さだ」
ウェリントン : 「バイランドの旅団は踏ん張れるか」
ピクトン : 「ご心配なく。頑張るでしょう」
ウェリントン : 「それならいいが

[ 編者注 ] 第二オランダ=ベルギー歩兵師団のバイランド旅団は大半が近隣 から集められたオランダ民兵で構成されていた。

屋外 : フランス軍の右翼

一方、準備砲火の間にデルロン伯の第Ⅰ軍団は攻撃準備を整えて、命令を待っ ていた。ネイが満を持して帽子を振って合図すると、4個歩兵師団が前進を開始 した。この攻撃部隊は巨大な縦隊を形成して前進していったが、この隊形は戦術 的な柔軟性を奪う旧式のものであった。

[ 編者注1 ] デルロンは映画には登場しないが、ひとつ言っておくと、彼の 名字はドルーエで、デルロン伯というのはコント・ド・エルロンを縮めたもので ある。
[ 編者注2 ] この会戦においてネイ元帥は戦闘指揮官で、司令官として全戦 闘を統括していた。ナポレオンは彼を通して全体を統率してたわけで、事実上の 司令官はネイであった。この決定は戦闘開始前になされたものだが、健康問題が 原因と言われる。
[ 編者注3 ] この師団縦隊の形成という戦術的ミスの原因ははっきりわかっ ていないのだが、デルロンか、ネイが指示を曲解していたものとも言われている 。

屋外 : ワーヴル道路の近辺

ウェリントン : 「古い隊形で攻めて来る」
ピクトン : 「我が方も古来の戦法で行きましょう」

ドラムの音が刻一刻と迫ってくる。

ピクトン : 「・・・」
ウェリントン : 「タイミングが重要だ」


[第35場面 、酒こそ我らが魂 ]

屋外 : ワーヴル道路の近辺

英軍の歩兵隊が整列して待機している。その列の間を軍曹たちが兵士たちにジ ンを注いでまわる。

英軍軍曹 : 「飲めるうちに飲んでおけ」
「酒の勢いで敵を圧倒するんだ」

迫り来る敵影を前に緊張している兵隊たち。

新伍長オコーナーが隣にジンを勧める。

伍長オコーナー : 「ディック」

断られたためにオコーナーは今度は反対隣に勧める。

伍長オコーナー : 「飲めよ。陛下の心尽くしだ」
「帰還したら、お礼を言いに行こう」

しかしマクケビットは無視して、祈りつづける。

兵卒マクケビット : 「敵はもっといるのか」
伍長オコーナー : 「知るもんか。神様じゃない」
兵卒マクケビット : 「地の底から、地獄が出てきた感じだ」
伍長オコーナー : 「信心深くなるなよ。弾がおれの方へ飛んでくる」 「・・・ちくしょう。」

と言って、オコーナーはジンをがぶ飲みする。 一方、トムリンソンは先頭を 進む鼓手の年端もゆかない少年たちをみて衝撃を受けている。



英軍士官 : 「第27連隊! 前進準備」

[ 映画字幕 ] ↑ 「第72連隊! 前進準備」

[ 編者注1 ] 字幕では”72師団”と言っているが、師団は当然、連隊の間 違いで、また72というのも間違いである。というのもワーテルローには第72 連隊は参加していないからである。そのうえこの第72連隊だとするとハイラン ダーズになり、この連隊はシルクを履いていないとはいってもチェック模様一つ ないのはおかしすぎる。”72”と聞こえるが、前出のエピソードから考えれば 、”27”ではないとおかしいので、セカンドではなくセブンスと言っている のだろうか?


[第36場面 、嗅ぎたばこ ]

屋外 : シャルルロワ道路の近辺

アクスブリッジとポンソンビーが配下の騎兵隊とともに待機している。

ポンソンビー : 「どうだね。アクスブリッジ」

ポンソンビーは嗅ぎタバコを勧め、アクスブリッジは一つまみ取って嗅いでみた。


アクスブリッジ : 「強烈な匂いだ」
ポンソンビー : 「今では手に入らん。 父が残してくれた物だ。 アレキサンドリアのユ ダヤ人がブレンドした」

アクスブリッジ、耐え切れずくしゃみをする。

アクスブリッジ : 「ブレンド?」

ポンソンビー、笑う。

ポンソンビー : 「父はフランス兵に殺された。二の舞いはごめんだ」
「馬が泥に足を取られた時、7人の槍騎兵に捕まったんだ」
「運が悪かった」
アクスブリッジ : 「まったくだ」
ポンソンビー : 「屋敷に名馬が400頭もいたのにだ」



屋外 : ウーゴーモン周辺

ウーゴーモン、2時

フランス軍は増援を投入したが効果なく、いまだウーゴーモンでは果てしなく 戦闘が続いていた。


[第37場面 、ピクトン戦死]

屋外 : ワーヴル道路の近辺

一方、中央ではフランスの攻撃縦隊が散兵線を突破して、丘の上に迫っていた 。

ウェリントン : 「バイランドの部隊が崩れた。穴を埋めろ」

ピクトン、一礼。

ウェリントン : 「重騎兵を使おう」

ピクトン : 「ゴードン、先に突っ込め」
ゴードン: 「ゆっくりどうぞ。我々だけで支えて見せます」
ピクトン : 「いいから行け」

ゴードン、笑みを浮かべる。

ゴードン : 「第92連隊、前進!」
「グリープレード マッケレー!」

バクパイプの音も高らかに、ハイランダーズが前進を開始する。


屋外 : ラ・ベル・アリアンス

ナポレオン、キルト姿のハイランダーズを望遠鏡で見て。

ナポレオン : 「婦人部隊を繰り出したのか」

[ 編者注 ] キルトとはスコットランドの伝統衣装で、格子縞模様の短い巻き スカートのこと。 付け加えると、ナポレオンは冗談を言っているだけである。


屋外 : フランス軍の右翼

英軍の騎馬砲が近距離で散弾を発射し、フランス兵や鼓笛隊の少年たちを細切 れに吹き飛ばす。
一方、ピクトンは配下の旅団を率いて、馬上、攻撃を指揮している。部隊はフ ランス軍と激突し、突撃を命じる。

ピクトン :「行け!酔っ払いの悪党め!」
「この下衆どもめ!」
「泥棒野郎、ろくでなし!」

すぐに大乱戦が始まり、予期せぬところから、流れ弾がピクトンの額を撃ち抜 く。彼はもんどりうって倒れ、戦死を遂げた。



[第38場面、 スコッツ・グレイズ突撃]

英軍はアクスブリッジの配下に予備として、サマーセットとポンソンビーの二 つの重騎兵旅団をもっていた。 アクスブリッジはフランス軍の胸甲騎兵がラ・エ ・サントに迫ったのを見て、重騎兵突撃で反撃することを決断する。

屋外 : シャルルロワ道路の東

ポンソンビー : 「今だ! スコッツ・グレイズ」
「前進!」

[ 編者注 ] 第二近衛竜騎兵旅団(北方旅団)はスコットランド兵で構成され 、灰色の毛の馬のみであったため、スコッツ・グレイズと呼ばれていた。

突撃ラッパが鳴ると、全重騎兵が猛然と突進をはじめ、彼らは素晴らしい機動 でフランスの胸甲騎兵と歩兵隊を蹴散らした。中でも抜群の働きを示したスコッ ツ・グレイズは味方の支援という本来の任務を忘れて、さらに突進し、戦闘に深 入りしていった。彼らは恐るべき勇猛さでフランス歩兵に襲い掛かり、奪われる ことはないと言われていた、第45連隊の鷲の旗章を奪い取るという武功までも 立てたのである。

[ 編者注 ] 鷲の旗章は連隊旗のポールの頂点に付けられた飾りで、皇帝から 授けられる名誉の象徴であった。特にこの第45連隊のものは、アウステルリッ ツ、イエナ、フリートラント、エスリンク、ワグラムで輝いた誉れ高いものであ った。

屋外 : ラ・ベル・アリアンス

ナポレオン : 「あの騎兵隊は手強いぞ」
ケレルマン将軍 : 「誇りは最高ですが、指揮は最低です」
(レフ・ポリャコフ)

[ 編者注 ] ケレルマンは第Ⅲ騎兵軍団長。カトル=ブラで激戦を交えたため 、この日は予備としてレニエ軍団の後方に配置されていた。

ナポレオン : 「なるほど、そうかもしれん
「槍騎兵で迎え撃とう」

合図のラッパが鳴って、ジャッキノーの槍騎兵が槍の穂先を揃えて現れる。彼 らは他の新手の胸甲騎兵とともに英軍の反攻を撃退すべく、突撃を命じられた。

[ 編者注 ] この槍騎兵はジャッキノー将軍の第一騎兵師団所属のもの。この 騎兵は第Ⅰ軍団の軍団騎兵であった。

屋外 : ラ・エ・サントの南東付近

スコッツ・グレイズは敵の戦線を突破し、砲兵陣地に迫る。

ポンソンビー : 「ひるむな!」 「大砲を潰せ!

[ 映画字幕 ] ↑ 「大砲が何だ!」



屋外 : モン・サン・ジャン高地

後方で戦況を見ていたウェリントンとアクスブリッジは、フランスの槍騎兵が スコッツ・グレイズに迫っていることに気づく。

[ 編者注 ] 史実ではアクスブリッジは自らサマーセット旅団を率いて戦闘に 参加し、ラ・エ・サント周辺の敵を粉砕していた。

アクスブリッジ : 「再集合ラッパ」

ラッパ手は必死に合図を送り続けたが、遠くで戦闘中の味方には聞こえなかった。

ウェリントン : 「やめろ、むだだ」 「君の耳に悪い」



屋外 : ラ・ベル・アリアンスの近く

スコッツ・グレイズが敵の砲兵隊に襲い掛かろうとした矢先、フランス軍の歩 兵隊が彼らの行く手を阻み、側面から槍騎兵たちが突撃してきた。

ポンソンビー : 「後退しろ! 再集合ラッパだ!」

英竜騎兵A : 「左に槍騎兵!」
英竜騎兵B : 「左に気をつけろ!」
英竜騎兵C : 「側面攻撃だ!」

突然の攻撃を受け、スコッツ・グレイズは混乱し再集合に失敗。混乱は必然的 にパニックを引き起こし、潰走を強いられた。
この混乱のなかポンソンビー少将は味方とはぐれ、ラッパ手だけを連れて後退 していたが、彼らの後ろからは7人の敵槍騎兵が迫っていた。そして不運にも、 彼の乗馬がぬかるみに足を取られて、身動きが取れなくなる。

ポンソンビー : 「息子に渡してくれ」

ポンソンビーはラッパ手に嗅ぎタバコ入れを渡すと、剣を抜いた。しかし多勢 に無勢で彼は槍に刺されて戦死を遂げる。ラッパ手は必死になって逃げようとし ていたが、ついに追いつかれ、背中から槍で一突きされて息耐えた。


[第39場面 、増援部隊]

屋外 : ワーヴルの南

主戦場の激戦をよそに、10マイル先のワーヴルの南では、グルーシー元帥と その右翼軍はまだ目立った動きを見せていなかった。グルーシーは昨夜の命令を 遵守して、ワーヴルを攻撃するつもりであったが、ブリュッヒャーはすでにワー ヴルを発ってワーテルローに向かっていた。このときワーヴルにはティールマンの軍団が後衛としているだけであった。グルーシーの位置からもワーテルローか らの砲声はよく聞こえていたが、彼は何もしようとはしなかった。

ジェラール : 「砲声が呼んでいます。主戦場へ戻りましょう。我々は全軍の3分の1です」
グルーシー : 「私に命令するつもりか」
「皇帝から受けた命令はプロシア軍の追跡だ」
ジェラール : 「私の部隊だけでも行かせてください」
グルーシー : 「二手に分かれるのか?」
「絞首刑になる」 「命令には背けん」

[ 編者注 ] グルーシーにとって、この日、ワーテルローで戦闘が交えられて いること自体は予定通りの行動であったため、砲声が聞こえたとしても別に驚く ようなことではなかった。ただし彼は主戦場の状況の変化を一切、知らなかった 。伝令が大幅に遅延し、彼への命令は午後遅くになってからしか届かなかったの である。であるから、この一点だけで彼が愚かであったと判断するのは非論理的 である。しかしまた戦術の原則からいうと、ジェラールやエクゼルマンが主張し たように、別働隊は主戦場に向かうべきであったのも事実である。グルーシーは 元帥であったのだから、限られた情報のなかででも独自の決断をして行動する責 務があった。彼はこの義務を放棄し、プロシア軍を分離するという任務をも全う できなかったわけであるから、全責任が彼になかったとしても、非難されてしか たがないと言えるだろう。



屋外 : ラ・ベル・アリアンス

ナポレオンは北東の地平線に何か動くものを発見した。サン=ランベール教会 の方角に、木々の間を部隊が移動しているのが確認できた。

ナポレオン : 「ラベドワイエール!」
「あの動いているのは?」

ラベドワイエールは望遠鏡をのぞく。

ラベドワイエール : 「軍隊のようです。5〜6千名はいるでしょう」
宮廷団長ベルトラン将軍 : 「その通りだ!」
(ボリス・モルチャノフ)

[ 編者注 ] ベルトランはデュロックの死後この役職を継承した。ナポレオン の総司令部の責任者である。

スルトも慌てて望遠鏡をのぞく。

スルト : 「馬も見えます」

ナポレオンもスルトから望遠鏡をとってのぞく。

ナポレオン : 「どっちの部隊だ?フランスかプロシアか?」

屋外 : モン・サン・ジャン高地

同じ頃、英軍でもこの未確認の部隊の接近を望遠鏡をのぞいて注視していた。

デランシー : 「グルーシー軍の青です」
アクスブリッジ : 「最悪ですな、あれが敵軍なら」
ウェリントン : 「プロシア軍の黒だろう」

ウェリントン : 「君は目がいい。色を見分けろ」
ヘイ : 「恐らく・・あれは・・」

屋外 : ラ・ベル・アリアンス

ナポレオン : 「プロシア軍だ」

泥だらけのネイが慌てて望遠鏡で確認しようとするのを制して。

ナポレオン : 「見る必要はない。プロシア軍だ」
「だが彼らはまだ月の上にいるも同然だ」
「わかるか?」

[ 編者注 ] このときプロシア軍の前進を阻止するために、予備のロバウ伯のの 第IV軍団を差し向けた。

ネイ、うなずく。

ナポレオン : 「ウェリントンの戦法は座ったまま戦うことだ」
「何とか動かそう」

ナポレオン : 「グルーシーはどこだ?」

ナポレオンは作戦地図の置いてある机に近づいて、一点をさしてネイに指示して。

ナポレオン : 「ラ・エ・サントの農家を占領した方が勝つ」
「行け」

[ 編者注 ] ラ・エ・サントの農家は中庭を中心として母屋、納屋、馬小屋、豚小屋の四つの建物とそれを結ぶ壁からなる、長方形の典型的な農民住宅で、加 えて南に果樹園、北に庭園がありこれらは生垣で囲まれていた。

ネイ、一礼して前線に戻っていく。


ナポレオン : 「グルーシーはどこだ!」
「彼の兵力が必要だ!どこにいる」
「なぜ私一人が苦しむ」

突然、ナポレオンがうずくまり、周囲は色をうしなって駆け寄る。

ベルトラン : 「陛下、ご負傷で?」
軍医長ラレイ : 「軍医として、休息を強くお勧めします」
「一時間はお休みください」
(クリスチャン・ヤナーキエフ)

[ 編者注 ] ラレイは高徳なヒューマニストとして知られる軍医で、ナポレオ ンが信頼していた数少ない医師の一人である。

ナポレオン : 「胃が痛んだだけだ。心配ない」

幕僚たちと近衛隊が心配そうに見守るなか、ナポレオンは必死に堪えて、立ち 上がり、平静を装う。

ナポレオン : 「ラベドワイエール」



[第40場面 、 死してなお残るもの]

屋外 : 風車小屋

壊れた風車小屋のなかで、ナポレオンはわらの上に疲れた体を横たえている。 側近はラベドワイエールが唯ひとり待している。

ナポレオン : 「アウステルリッツの後で・・・私は言った、・・・あと6年間はいい年が続くと」
「それから10年たち、9回も戦争をやった」
「聞いているか?」
ラベドワイエール : 「しかと」

ナポレオン : 「私の死後、世界は何というかな」
ラベドワイエール : 「栄光の限界を超えた、と」

ナポレオンは笑ったが、ふと思い立つ。

ナポレオン : 「遺産はそれだけか?」
「栄光の限界・・・」


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