ナポレオン・ボナパルトは
戦術家としての才能と--
政治的手腕で 国民の心をつかみ
数年のうちに フランス皇帝に即位
全ヨーロッパの覇者として 君臨した
しかし1812年
15年間続いた勝利の栄光は
ロシア戦役での大敗により
終わりを迎える
翌1813年には オーストリア
ロシア プロイセン--
イギリスの対仏同盟軍に
ライプチヒで破れ
窮地に立ったナポレオンは
運命の日を待っていた


[第1場面 、退位するナポレオン]

1814年4月20日 フォンテンブロー宮殿

ミシェル・ネイ元帥 : 「もはやこれまで」
初っ端から敬語の要素が全くないのはいかがなものか。皇帝に話しているわけで、デスマスぐらいは付けて欲しい。字数制限はガンガン無視した文章がこれからどんどん出てくるわけであるから。
ニコラ・スルト元帥 : 「我々の負けです」
ネイ:「20年間の栄光の道も 途絶えました」
スルト : 「パリは陥落寸前です」
ネイ : 「オーストリア軍が--」
「ベルサイユに侵攻を」

ネイ : 「コサック兵はセーヌ河に」
ネイ:「モンマルトルには プロイセン軍が」
敢てプロシアをプロイセン軍に直すべきだろうか? この映画は全編英語で「プロシア」という音ははっきり聞き取れるのに、字数を増やしてまで変える必要はないと思う。耳に従うことも重要だ。また横文字は母国語の音に従うというのならば、フォンテンブローはフォンテーヌブローだろう。
スルト : 「4か国の4つの軍隊が 我々に刃を向けています」
ルビ (刃=やいば)
「4」が三つ出てくる原文のテンポを壊して、かつ長いわ内容が曖昧だわで、良くない。ルビを振るほどの文章か??

ネイ : 「ご退位を」
スルト : 「千名の近衛兵と共に エルバ島へお立ち退き下さい」
「名誉の追放です」
ネイ : 「ほかに道はありません」
ウディノ元帥 : 「陛下 ご署名を これも運命です」
後半は必要かな?


ナポレオン
 : 「なぜだ」
ナポレオン :「お前たちの保身のためか」
「誰のお陰で 今の地位が築けた?」
言い方の問題だが、原文の「私のお陰で」を「誰のお陰で」に変えると、非常に嫌味っぽい。ここは前文との兼ね合いを考えれば、私がいなければお前達の地位もあり得ない、私を見捨てれば結局はお前達の破滅だという真意が言外にあると思うので、素直に「私」を残したほうが無難。

ネイ : 「お願いです」
あのネイ元帥が皇帝にお願いするのはおかしい。ネイは懇願に来たのではなくて、要求しに来たのであるから。次の会話での皇帝の怒りを思えば、ここで下手に出ていては、つながりも悪い。
「ご退位を」
スルト : 「陛下」

ナポレオン : 「ネーよ」
「余が何より嫌悪するのは 恩知らずの人間だ」
左の旧版では「余」と「私」の使い分けがあるのだが、こちらはすべて「余」を使っているようだ。一般的な会話では「私」のほうがいいと思う。またこの文は長すぎ。


ナポレオン
 : 「どうすればいい」
「どうすれば?」
「ロシア皇帝に講和を求めたが 拒まれてしまった」
長すぎ。もっと削れ。
「どうすべきだ」
「我々のとるべき道は?」
「戦うのみだ

ナポレオン : 「パリに砦を築き オーストリア軍を駆逐」
ルビ (砦=とりで)
ここでの「Fortify」は”守りを固める”程度の意味だろう。「砦を築く」といった具体的な話は飛躍のしすぎ。「Disengage」は”交戦状態からの離脱”の意味であるから、「駆逐」とはまるで逆の意味。むしろ「撤退」だろう。はっきりした誤訳。
「イタリアに後退して 国中から兵を集め」
この言い方だと、イタリア国内に後退してという風に、「into」の意味で解釈されてしまう可能性がある。どこかに防衛線を置き、イタリア方向に後退するといっているわけだから、左の「イタリアを背に」の訳文のすばらしさがわかる。また二度も繰り返しているわけであるから「動員」という言葉を使うべきだ。
「進軍するのだ」
マクドナル元帥:「その兵がおりません」
前のセリフで動員という言葉を使わなかったせいで、「その兵」?どの兵だ?というような漠然とした話になってしまっている。直訳よりも悪い。
ネイ :「モスクワの二の舞は ごめんです」
原文を一文だけ字幕にするならこれでいいだろうが、流れとしてみると意味不明で、何をさしているのか不明瞭。字数内にまとめることだけ考えたような文で、セリフとしての脈絡がなさすぎる。

サン=シール
元帥 : 「ウェリントンです」
脈絡がない。訳者はこの部分の流れを本当につかんでいるのだろうか? 左にも書いたが、ここは徹底抗戦が不可能である理由が列挙されている部分。「ウェリントンです」と言われたら、「ウェリントンがどうした?」聞き返さざる得ない・・。次のナポレオンのセリフと合わせても意味が分からない。ちなみにだが、ウェリントンは当時、南フランスのトゥールーズあたりにいて、スルトの軍隊を対峙あるいは追跡していた。この映画ではこの場にスルト元帥がいることにはなっているが、ウェリントン軍がパリに迫っていると歴史背景を書き換えているわけではないので、ウェリントンが来ましたという意味で訳者がこのセリフを訳したとすれば誤訳。
ナポレオン : 「ウェリントン?」
「またあいつか」

ナポレオン : 「ウェリントンが何だ」
ナポレオン : 「なぜ恐れる? スペインで負けたからか」
スルト : 「民心は離れました」
このセリフは、スペインでウェリントンに負けたスルトが、理由をあげて抗弁しているわけであるから、別の話題のような書き方は拙い。また次の文に「ついてくる」という言葉がくるのだから、「民心は離れた」という原文からも離れた表現よりも、「従う」という原文の意味を残さないと駄目だろう。つながりは大事。
ナポレオン : 「勝利に導けば 国民は必ず余についてくる」

ネイ : 「この期に及んで」
失敬な! ところで何でこんな変な訳なの?
「退位なさいませ」
「王座」という言葉を使わないと、次につながらない。これでは会話不成立です。

ナポレオン : 「ネーよ これは 王座の問題ではない」
字幕ではネイが「王座」と言ってないことになってんだから、そりゃ王座の問題じゃないでしょうな。きっと字幕の貧困の問題だよ。
「王座とは何だ」
「きらびやかな装飾を施した 家具の1つにすぎぬ」
長すぎ。「華美」の一言がでないか・・・。
「それより重要なのは--」
「そこに身を置く 余の頭脳 願望 夢」
「想像力 そしてもう一つ」
どう考えても、最も重要なものとして最後に「意志」をあげているのであるから、「もう一つ」では不十分だろう。普通に考えて「特に」とか「とりわけ」とか使うべきでしょう。なぜ?
「余の意志だ」
ナポレオン : 「耳を疑ったぞ」
「紙切れを手に 余に退位を迫るとは」

ナポレオン : 余は退位などせん!」
「断じてするものか!」


ナポレオン
 : 「全員か?」
正確には「マルモン元帥が降伏して部隊をオーストリア軍に引き渡した」という話なのだから、「全員か?」という問いかけは変。やっぱり「全軍か」だろう。


ナポレオン
 : 「いつだ」
副官ラベドワイエール : 「今朝です」 

ナポレオン : (万事休すか
署名しろ
「署名しよう」
自問自答しているわけだが、やっぱり命令形は変。

エルバ島?) (なぜエルバ島なのだ
この言い方だと、「他の島でもよさそうなものなのに」という風にとられまいか? ここは自分の運命について自問自答しているわけだから、ここは漠然とさせないと。


ラベドワイエール
 : 「マルモン元帥の部隊が降伏を」
これは部隊が主語だが、これだとマルモン元帥が裏切ったという事実が見えなくなるので、良くない。
「望みは消えた」
歯切れの悪い終わり方。


[第2場面 、近衛隊との別れ]

ナポレオン : 「兵士たち!」
全体に変な訳だが、次の文の後半で同じ箇所を繰り返す、悪い訳だ。4文字使うのなら、素直に「兵士諸君」でよかったのでは?
「古参親衛隊の諸君」
「古参」は、必ずしも必要ないと思うが、それはいいとしても、「親衛隊」は「近衛隊」に変えるべきだろう。親衛隊の近衛兵とはおかしかろうに。一般に、王朝的響きの強い「近衛」のほうが、帝国や王国の「Guard」の訳語として相応しい。共和国その他に「親衛」を使うべきだと個人的に考える。またこの文は字数制限オーバー。
「20年の月日が流れ」
「この日がきた」
「今日で--」
「お別れだ」
三度も「日」を繰り返してクドイ。持って回ったような訳。
「フランスは敗れた」
「だが 余を忘れるな」
「皆を愛しているが」 「全員を--」
「抱くことはできない」
「皆」と「全員」、同じ意味の言葉の使用は微妙。逆でもいいような気もするし、同義語の使用は避けたほうがいいような気もする。また「抱く」よりは「抱擁」か「抱きしめる」が的確。

ナポレオン : 「このキスと共に--」
いろいろ考えたが、「と共に」ではなく、「で」だと思う。同伴の意味だと、”ナポレオン+キス”で覚えていろということになるが、やはり「キス」によって「私」を思い出して欲しいといっているのであって、これはおかしい。
「余を忘れるな」
「さらば 老兵たちよ」
「余の息子たち」
「さらば」
「子供たちよ」


1814年5月 ナポレオンは--

地中海の小さな島
エルバ島へ流された


10ヶ月後 ナポレオンは 島を脱出

千名足らずの 近衛兵を連れて

ヨーロッパ本土に 上陸した


[第3場面 、怪物の脱出]

1815年3月1日 チュイルリー宮殿

侍従 : 「国王陛下」
「怪物が島を脱出しました」

スルト : 「よく戻れたものです」
国王ルイ18世 : 「落ち着くのだ」  「案ずるには及ばん」
ルイ18世 : 「ナポレオンの兵力は たかが千ではないか」
「今はまだ 我々の脅威ではない」
原文のニュアンスを伝えてない。「まだ」の部分は後に、不承不承という感じで付け加えないと。
「スルト元帥 パリで指揮に当たれ」
「ネー元帥」
「君がオオカミ男を 迎えに行け」
「Confront」は「迎えに行く」というような調子ではない。だいたいオオカミ男を迎えに行くなんて状況があり得るだろうか。これでは比喩としても成り立たない。オオカミ男(=邪悪)は退治すべき存在だろう。余裕のあるところを字幕に出したかったのだろうが、全く台無しにしている。

ルイ18世 : 「愛していたな」
ゲイじゃないんだから、「崇拝」とか「敬愛」とか「心酔」、「心服」などなど、「Love」の訳語となりうる的確な言葉が日本語にはいろいろとある。前述の「抱く」にしても、デリカシーにかける。
ネイ : 「それは--」
「昔のこと」
「鉄の檻に入れて 戻って参ります」
ルビ (檻=おり)

ルイ18世 : 「とかく大げさなのだ」 「軍人とやらは」
「鉄の檻だと?」
「誰も頼まん」
最後の最後でなんで直訳調?


[第4場面 、諸君の皇帝はここにいるぞ]

近衛兵AとB : 「引き返せん 前進あるのみだ」
 
近衛士官 : 「第2軍団 駆け足で--」 「右へ! 行け」
左と同じ理由で、軍団は縦隊に。あと「!」の位置が逆では? 普通最後につくと思うが。


国王側士官 : 「構えよ!」


ナポレオン
 : 「第5戦列歩兵連隊」
確かにこの部隊名は史実として正しいが、字幕の常識から考えれば「Soldiers」という呼びかけのほうが重要で、セリフとしてはおかしいし、字数制限の二倍は長すぎ。この部隊名は物語上、何の意味もなく、敢て歴史を掘り起こして登場させる意義はない。またそれは字幕の役割でもない。字幕はストーリーを追うべき。
「余がわかるか」

ナポレオン : 「もしも--」 「皇帝を殺すなら」 

ナポレオン : 「ここにいる」


国王側士官 : 「撃て!」


歓声 : 「皇帝 万歳!」


ナポレオン
 : 「グルノーブルへ」
「グルノーブルへ」ではこのシーンの意味がわかない。ここは意訳が必要だろう。


[第5場面 、皇帝の帰還]

布告 :
「"傷ついた名誉を 回復するために"」
「"余はフランスに戻った"」
これだと自分の名誉を回復するために戻ってきたように聞こえる。自分はフランスのために戻ったというのが文脈なので、不適切な文。
「"余は見た 国民の権利が侵され"」
明らかに「国民の」ではない。後でフランスは私自身だと言う人物の布告として不自然。
「"踏みにじられるのを"」
「"余の勝利は目前だ"」
現在形で”勝利は常に不動”ということで、明らかな誤訳。史実での帰還直後の布告の冒頭は「我々は敗れたのではない」で始まるのであって、このセリフは意訳すれば「余はいまだ無敵だ」ということなのである。
「"ワシは鐘楼から鐘楼へと 空高く舞うだろう"」
「ワシ」は「鷲」にしてくれないと「儂」のことかと思ってしまう。多分、「鐘楼」が二つあって、漢字が並ぶのを避けたのだろうが、そもそも鐘楼は必要か? それから「だろう」という会話口調も、布告にはそぐわない。文語調に。
「"ノートルダム大聖堂の 塔に達するまで"」
この部分は原文にないにも関わらず両方の訳文で取り上げられている。ナポレオンの布告文オリジナルをまねたものだが、原文にない付けたしで、自由にできるわけだから、もっときれいにまとめないといかんだろう。


ナポレオン
 : 「まっすぐか」
ナポレオン : 「ネー お前も一緒に来い」

人々A :
人々B : 「ナポレオン ナポレオン」

ナポレオン : 「余は戻った!」

ナポレオン : 「フランスを幸せにするために」

退役兵 : 「ブルボン王家は墓場に行け!」
長すぎ。どうせ長くするなら正確に。
「ブルボンめ糞っ食らえ」
人々C : 「裏切り者は死刑に!」

ナポレオン : 「余はフランス フランスは余である!」

退役兵 : 「ナポレオンが戻ったぞ おれたちの元へ!」


ナポレオン
 : 「退位を迫った お前の顔は忘れぬ」
ネイ : 「フランスのためです」
ここは絶対に過去形にすべき。仕方なくやったことだというニュアンスも伝わらない。
ナポレオン : 「愛国心? 国王と約束したとか」
「え?」と逆に聞き返したくなるような訳文。「愛国心?」は不要。原文は「何がフランスのためになるかは俺が決める」というような内容をボソと言っているが、次の文との間には「ところで」が入るような感じ。並べて字幕に入れるべきではない。逆に分かりにくくなっている。
ネイ : 「しました」
ナポレオン : 「檻のことを」
ネイ : 「そうです」
ナポレオン : 「一体 何のことだ」
「何のことだ」というより「どういうこと」か本人の口から聞きたいのであるから、はなはだ不適切。
ネイ : 「皇帝陛下を 檻に入れて戻ると」
ナポレオン : 「聞いたぞ」
そらそうだよ今聞いただろう、と言いたげな訳。原文に書いてある通りに「聞いた通り」としないから、こういう意味不明の文なる。

ナポレオン : 「豚王を 王座から 引きずり降ろせ」
「豚王」てのは酷い。原文もそんなに汚い言葉を使ってるわけではないし。そもそも字数が足らないからこんな語句になっているのだろうが、前回ださなかった「王座」を今回は出すというのはなぜ? ”ここでは”「王座」という言葉は重要ではないので、その地位から追い落とす意味の適当な文句に変えればいいのでは?
「国民の名誉を汚した大罪人だ」

人々C : 「縛り首にしろ!」


[第6場面 、ブルボン家の逃亡]

ルイ18世 : 「国民は私を--」 「行かせるだろう」
「彼を迎えたように」


[第7場面 、皇帝万歳]

人々D : 「お戻りになられたぞ」 「皇帝陛下だ」
人々E : 「フランスは生き返った」

人々F : 「皇帝陛下に栄光あれ!」

人々G : 「勝利よ 再び!」
人々H : 「皇帝陛下だ 我らの君主が戻られた」
人々I : 「我々の英雄を 宮殿にお迎えしろ」

女性市民 : 「ナポレオン 万歳!」


[第8場面 、総参謀長の任命]

ナポレオン : 「コランクール モリアン モレー フーシェ」
左と同じ。
「30分後に会議を開くぞ」
ジョゼフ・フーシェ :
次のナポレオンのセリフに「議題」を入れるのなら、こちらに入れてもよさそうだが。
「議題は?」
ナポレオン 「議題か? 明朝までに組閣せねば」
ナポレオンが軽口を叩いて、周囲が笑っているのだから、それなりのセリフにしないと。

ナポレオン : 「ドルーオ」
ドルーオ将軍 :
ナポレオン :  「心して聞け」
「人間の価値は忠誠心で決まる」
「忠誠心だぞ」
ナポレオン : 「君は類まれな男だ」
ルビ (類=たぐい)
「高潔にして誠実そのものだ」
「余に協力を」
ドルーオ : 「身に余る幸せ」
ナポレオン : 「感謝するぞ」

ナポレオン : 「スルト」

ナポレオン : 「頼みがある」
スルト : 「何なりと」
ナポレオン :  「王の陸軍大臣だったな」
ここの一連の文章は原文と内容を変えてきているのだが何のためなのか? このシーンでスルトはおどおどしていて、積極的な発言をする雰囲気ではない。皇帝にお前は敵の大臣だっただろう、と言いかけられたら、それは非難でしかないわけだから、反論は不可能だろうに、自ら今は違う、などというセリフを、作り変えて入れている。これでは全然駄目。この訳者は勝手に文章を変えて駄目にする例が多すぎる。ここでの皇帝のやんわりとした感じが台無し。
スルト : 「今は違います」
ナポレオン : 「そう願いたい」

ナポレオン : 「静粛に!」
「参謀総長に任命する」
スルト : 「喜んで」
「喜んで」という感じではないですな。型どおりの返答だとしても、普通に「お受けします」のほうがいい。
ナポレオン : 「過去は不問に付そう」
周知のことだがこれは成句。ありきたりの諺を敢て言ったから、皇帝はニコッとしたわけで、不問に付そうなどと言っておいてニッコリ笑えるか? シーンの映像に合わせる努力が足らない。


[第9場面 、外交声明]

ナポレオン : 「”マダム・・・”」
「”ご子息は亡くなりました”」
「”観兵式に最中に 落馬されたのです”」
ナポレオンが敬語を使うのはおかしいので、「落馬した」が正しい。
ナポレオン : 「いや それはまずい」
「もっと徴兵するのだ」
「区域をくまなく捜せ  署名を」
こんな分かりにくいところを良く訳している。
ナポレオン : 「”ご子息は最期まで 勇敢でした”」
「”残念ですが--”」
「”誰しも いつかは 死ぬ運命です”」
原文のニュアンスを全く出してない。


ナポレオン
 : 「”アレクシス大公へ”」
「”私は王冠を 奪い取ったのではない”」
「”落ちていたのだ”」
またもやセリフの妙な書き換え。訳者は「拾い上げた」に反応して「落ちていた」ことにしたのだろうが、何で勝手に筋書きを変える? 「見つけた」言うとるやないけ!ボケ。 これは権力者にのし上がった過程を比喩的に表現しているシーン。「落ちていた」ではあまりに受動的。能動的に「見つけた」という事実を無視するとは、なんて横暴な字幕翻訳者だ。
「”溝の中に”」
「”それを私は--”」 「”拾い上げたのだ”」
「”剣の力で”」
たとえ話をしているのに、妙な尾ひれをつけてからに・・・。まさに蛇足。
「”民衆だよ アレクシス”」
「”民衆が--”」
「”頭にかぶせたのだ”」

ナポレオン : 「”国を救った英雄が--”」 「”法を犯すものか”」


ナポレオン
 : 「”最愛の妻よ”」
「”余の妃であり--”」 「”宿敵オーストリア皇帝の娘よ”」
「”余の宝を返してくれ”」
「”余の息子を”」


ナポレオン
: 「”イギリスの摂政皇太子”」
「”貴国は この20年間 我々の敵でありました”」
「”しかし私は--”」  「”和平を求めます”」
その20年間のうちの15年間はナポレオンとの戦いであるわけだから、「今」という一言をいれないと。原文のとおりのたった一字を。
「和平を!」
「”ゆえに ウェリントンの存在は・・・”」

ナポレオン : 「息子は・・・」
「余の未来そのものだが」
「敵の王子になるくらいなら 死んだ方がいい」


[第10場面 、宣戦布告]

ナポレオン : 「とうとう来たぞ 全ヨーロッパが宣戦布告だ」
「フランスにではなく余に」
ラベドワイエール将軍 : 「陛下が怖いのです」
何度も言うが、これでは笑えない。原文を知らなければ、一見、スムーズな訳に思えるが、ラベドワイエールがちょっと気の利いたことを言ったからこそナポレオンが笑ったのであって、こんな普通のセリフなら何の面白みも無い。ニュアンスをもっと出せ。
ナポレオン : 「畏怖からか?」
「余を罪人と きめつけたうえ--」
「道化を刺客に寄こした」

ナポレオン : 「ウェリントンは?」
スルト : 「ブリュッセルです」
ナポレオン : 「ブリュッハー元帥とか?」
左に同じ。またここは呼び捨てでいい思う。元帥不要。
ネイ : 「戦いの首謀者を--」
「戦い」はどう考えても「戦争」のほうがいいだろう。一連のセリフには宣戦布告、和平会談などの言葉が原文にでてきているのであるから、「戦争」の話だってことは明白。
「血祭りに!」
ナポレオン : 「それがいい」
「ウェリントンの首を見るまで 和平には応じんぞ」
ナポレオンは「和平に応じる」立場ではない。立場が逆転したような訳はよくない。敵の野戦軍を撃滅して、敵に講和を強いるのがナポレオンのやり方。現状では連合軍側が圧倒的に有利で、たった今、相手が和平を拒否して宣戦布告してきたところなのに、理屈に合わない訳文。


[第11場面 、時は来たれり ]

従僕コンスタン : 「スルト元帥です」 「急用だとか」
ナポレオン : 「いつものことだ」
ナポレオン : 「通せ」


スルト
 : 「イギリス軍と プロイセン軍が二手に」
ナポレオン : 「分かれた?」
スルト :
ナポレオン : 「事実か?」
スルト : 「事実です」
ナポレオン : 「面白い展開だな」
この後にも「歴史(=後世の歴史家)」がどう評価するかという話がでてくるので、「歴史」は外せないし、この表現は”面白く”ない。
「ブリュッハーを追い払い ウェリントンと勝負だ」
「追い払」ってしまったら、再編制して再び立ち向かってきてしまう。原文の通り「押しのけ」が的確。これは各個撃破のナポレオン戦術の典型なだけに、セリフの意味の理解が必要。
スルト : 「御意に」
ナポレオン : 「血戦になるな」
スルト : 「恐らく」
ナポレオン : 「間違いない」
「マレンゴの戦いのように 勝機を逃がすな」
セリフの流れは、ウェリントンとの決戦のことでつながっていて、「一回の大会戦で戦争の勝敗が決するところがマレンゴ会戦に似てる」というのが直訳。ニュアンスが生かされてない。
「下がれ」
珍しく優しい言葉をかけたんだから、それを訳せよ。「ご苦労」でも字数変わらないんだし。

ナポレオン:(マレンゴ・・・私は若かった
これではほとんど意味不明。














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