[第12場面 、リッチモンド公爵夫人の舞踏会]

1815年6月15日 ブリュッセル

リッチモンド公爵夫人 : 「伯父様が 行進を見せてくれたの」 「将兵の"下見"にね」
「伯父」細かいところだが正しい。ただ何を見せてくれたのか明示すべき。
リッチモンド夫人 :  「私の眼鏡にかなった 好青年ばかりよ」
公爵夫人の娘サラ : 「大男が多いわね」
ここはサラのおませな発言シーンのひとつ。母親が自分の”好み”の兵士たちを選び、それに対しての娘サラのコメントが、”大きいの”を選んだわね、というもの。逆に言えば”大きいの”が好きなのね、ということで、もっと上品にとらえても、背の高い美丈夫を母親が選んだことに対して娘が茶化しているわけだから、こんな普通のセリフでは(たとえ頭では理解していたとしても結果は)誤訳と言って差し支えない。


ウェリントン
公爵 : 「まるで美の戦士だ」
こんな変な意訳をしたせいで、次の文章、その次の文章に話がつながっていかない。訳者本人は気の利いたセリフに訳したつもりだろうが、毎度毎度、原文から離れるたびに台無しにする人だ。
リッチモンド夫人 : 「女は軍鼓に続くだけ」
「軍鼓」? 場違いに硬い言葉。女性の社交的会話のなかに「○ンコ」みたいな言葉出す?普通。もっと貴婦人らしい柔らかい言葉で!
「最近は将兵が人気の的なの」
「将兵」? 将校か兵士か曖昧。ここは「軍人」か「兵隊」が的確でしょう。語句の選択ミスが多すぎ。
ウェリントン : 「”社交界の花”か」

リッチモンド夫人 : 「軍人はイギリスの宝ね」
ここでは何で「軍人」? 「They = Soldiers」なのだからどっちかに統一すればまだ理解できるが・・。全体を見てない?
ウェリントン : 「クズだ」
「貧乏人や悪党どもの集まりだ」
「ジンが愛国心の源さ」
ジン=安酒の意味だが、字幕で「ジン」として分かりやすいだろうか? 「」でいいのでは?
リッチモンド夫人 : 「あなたのために死ぬの?」
ウェリントン :
リッチモンド夫人 : 「それが義務だから?」
ウェリントン :
リッチモンド夫人 : 「敵兵も義務感で ナポレオンの元に?」
何度も言うけどこれではつながらない。会話のつながりを絶つな 、と声を大に言いたい。これは直訳調で「ナポレオンであっても義務感で兵隊を操れるとは思わないわ」というセリフで、これに対してウェリントンの「そう 奴は紳士じゃないからね」というセリフとつながる。この訳者のセリフではなぜか疑問形になっており、あたかも質疑応答のようで脈絡がない。また「元」は「下」の間違い。
ウェリントン : 「奴は紳士じゃない」
ルビ(奴=やつ)

リッチモンド夫人 : 「それが英国紳士のセリフ?」
ウェリントン : 「兵士の扱いはうまいが」
「紳士ではない」

リッチモンド公爵 : 「閣下」

サラ : 「パリに行ったら ナポレオンに会わせてね」

「お母様が好きなの」
リッチモンド夫人 : 「ボナパルト派なのよ」
サラ : 「ナポレオンは怪物とか」
これが女の子のセリフか?
ウェリントン : 「王冠を食い--」
「血を飲む」

リッチモンド夫人 :「それでアーサー 怪物退治はいつなの?」
ウェリントン : 「敵がどう動くか」
「それ次第だが・・・」


[第13場面 、越境する北方軍]

ナポレオン : 「川を渡ろう 明日はブリュッセル入りだな」
ネイ : 「神も味方です」
ナポレオン : 「神の助けは要らぬ」
この映画の名言として世界的に有名なセリフが台無し。字幕家は脚本家よりも優れているなどと己惚れず、素直に原文のニュアンスを出せばいいのであって、勝手に作文するなと言いたい。


[第14場面 、舞踏会を乱す者たち]

リッチモンド夫人 : 「ヘイを戦死させないでね」
ウェリントン : 「サラと婚約を?」
リッチモンド夫人 : 「愛する娘を 黒衣の花嫁にしたくないわ」
「黒衣の花嫁」というのは、結婚直後に夫が死んだ場合でないとおかしい。結婚前に死なせるなと言っているわけであるから、きれいにきまった文章のようでそうでない。またこの文句、推理作家コーネル・ウールリッチ(ウィリアム・アイリッシュ)原作の小説のタイトルなわけで、盗用にあたらないのか?


サラ
 : 「お土産は 胸甲騎兵のカブトですって」
「血は付けずに」
会話的に語尾が変。「付けない」と「付いてない」では随分意味が違ってくるが。
リッチモンド夫人 : 「私には敵の血の付いたものを」
この発言、冗談とも本気ともとれる微妙なセリフなのだが、いずれにしても会話として成立するように工夫が必要。いつもは原文に従えと言うところだが、このセリフは直訳調すぎる。
ポンソンビー少将 : 「敵兵のどこを狙う?」
ここは「刺す」とか「切りつける」とかにすべき。なぜかと言うと、そのたった一言で武器がサーベルであることがわかるからで、狙うでは銃か剣か分からない。普通、現代人にとって「狙う」と言われたら銃撃を連想する。右のわきという答えは、敵兵がサーベルを持つ手で振り回したときに弱点となる場所だからで、全部意味があるのだ。
ヘイ : 「右のわき腹です」
正確には「右腕のわき」と言っている。相手は胸甲騎兵なわけだから、わき腹には鎧があり、これでは駄目。鎧のない急所をさしているわけで、ちなみに脇腹は急所でもない。
サラ : 「頼もしいわ」
ピクトン中将 : 「胸甲騎兵と戦えるだけ  幸運だと思え」
こんなこと言ってない。「戦えるだけで幸せ」を感じても死んだらおしまい。「胸甲騎兵に会って生きて帰れれば幸せと思え」というのが発言の趣旨。スポーツやっているんじゃないんだから、「戦った」結果は生か死しかないのだから、ほとんどセリフの意味が逆転している。
「敵のカブトよりも--」
「自分の命を心配しろ 敵は戦い方を心得ておる」
ピクトン : 「公爵夫人 失礼します」
ピクトン : 「何も知らないガキどもが!」

サラ : 「ピクトン将軍って無礼な方」
後の二行を原文の趣旨で訳すならば、このセリフも原文のニュアンスを出さなければ、話が通じない。”舞踏会=踊る”ということがかかっているセリフ。
「舞踏会の作法を 知らない人ね」
ウェリントン : 「敵と踊るのがうまい」
サラ : 「戦場では紳士なのね」

淑女A : 「誰かしら」
紳士A : 「プロイセン軍の将校だ」
淑女A : 「何の用?」


リッチモンド
夫人 : 「ムードが台なしだわ」

マッフリン男爵 : 「ナポレオンが・・・」
ウェリントン : 「ミュフリング 敵は国境を越えたな」
最初の母音の「u」は変母音なので、ドイツ語読みで「ミュフリング」。英語読みが「マッフリン」。どちらでもいいが音に従った。
マッフリン : 「イギリス軍と--」 「プロイセン軍の間に進撃を」
ウェリントン : 「場所は?」
マッフリン : 「シャルルロア」
ウェリントン : 「シャルルロア」
リッチモンド夫人 : 「舞踏会を中止に?」
ウェリントン : 「いや まだいい」 「せめて曲が終わるまで」
それではやっぱり中止なんじゃないか、と言いたくなる意味不明のセリフ。「全士官に踊り終えろ」と言っているんだから一曲では無理。予定通りに舞踏会を続けろという意味だろう。一曲だったら長くても10分ぐらいで終わってしまう。
ウェリントン : 「騎兵隊をシャルルロアへ」
「第五師団も出発だ」
原文にも全く登場しない「第五師団」を勝手に登場させる意味がどこにあるのだろうか??? ピクトンの師団が第五師団なのは確かだが、字幕に出そうと考える意図が不明。しかも今後は第五師団という言葉は出てこないし、物語上重要でもなく、視聴者を混乱させるだけ。そんな余計な情報を出すより、「すぐに」とか「今夜」とかまだまだ字幕に出す価値のある情報が原文のセリフにはあるのではなかろうか。 これではただの自己満足。

ウェリントン : 「シャルルロア・・・」


マドレーヌ
・ホール : 「私も行くわ 公爵様に頼んで」
「スペイン戦役では許されたはずよ」

ウィリアム・デランシー大佐 : 「マデレン 危険だよ」
マドレーヌ : 「怖いわ これでお別れかも」
「怖いわ もう逢えないかも」


将軍たち : 「プロイセン軍が右なら 我々は・・・」
将軍たち : 「敵はモンスかと」

ウェリントン : 「シャルルロアとは 意表をつかれた」
「闇に紛れて進軍したか」
「ここまでは 敵のほうが一枚うわてだな」

ウェリントン : 「プロイセン軍が ベルギーに残るなら我々も」
「残る」という言い回しは日本語として変。次のセリフで「とどまる」という言葉を使っているならこちらもそうすべき。
マッフリン : 「そういうお約束なら、我が軍も とどまります」
連絡将校に決定権はないので、こういう、さも自分で決断したかのような言い方は拙い。

ウェリントン : 「道の合流点・・・」
デランシー : 「敵はカトル・ブラへ」
ウェリントン : 「阻止できなければ--」
「ここで勝負だ」

ウェリントン
 : 「シャルルロアとは」
「敵もやるではないか」


[第15場面 、両会戦は決定打を欠いた]

ナポレオン : 「いい眺めではないな」
「プロイセン兵を 1万6千も倒せば無理もない」
こんなこと言ってないし、こんなこと言うはずもない。この訳は根本的にダメ

ネイ
 : 「ウェリントンが カトル・ブラから退却を」
ナポレオン : 「なぜ追わぬ」
先走りすぎ。話の順序を守って。
ネイ : 「報告をと」
ナポレオン : 「追撃もせずに 黙って見送ったのか」
ネイ : 「お約束の増援は?」
ナポレオン : 「余を責めるのか」
「愚か者めが」
「敵を壊滅しなければ この勝利が無駄になる」
趣旨が全然違う。こういう勝手な書き換えは最悪。カトル=ブラで英軍を壊滅できるなどとは、ナポレオンもネイも考えてはいない。ネイの優先事項は敵の捕捉。撃滅は本隊と合流後だ。敵の捕捉を怠れば、敵は守備(あるいは退却・合流)に有利な地を選んで戦うことになるので、それをナポレオンは怒っているのであって、(カトル=ブラにいた敵は英軍の3分の1程度)英軍の壊滅は求めてない。そして失うと言っているのは、「この勝利(=リニー会戦)」ではなく、戦役全体、つまり作戦プランが台無しになると言っているのであって、この訳は完全に間違い


[第16場面 、プロシアの前進元帥]

グナイゼナウ将軍 : 「ブリュッハー元帥 退却命令を」
ブリュッヒャー元帥 : 「誇り高い72歳の軍人に 逃げろと言うのか?」
「この剣がわしの誓いだ」
「私も歳を取りすぎたか」
「剣」が「誓い(=復讐)」だというのだから、剣を折るというのは年齢の話ではなく名誉の話だろう。
「晩節は汚したくない」
グナイゼナウ : 「イギリス軍が撤退すれば 我々は孤立」
「ナミュールにに向かうのが 得策ですが」
「元帥 いかがでしょう」
「ワーブルなら イギリス軍に合流できます」
意訳だが、このほうが”まだ”わかりやすい。ただかなり簡略化していて、体言止めしたり、口語をつかったりと統一感がないのが問題。
「あとは運次第です」


[第17場面 、右翼軍の分遣]

ナポレオン : 「グルーシ」
「ジェラール」
「お前たちに--」
三分の一はなぜカット?ここは全体として訳はまともだが、軍隊用語っぽくない。
「3万の兵を与えよう」
「ブリュッハーを追え」
「イギリス軍との合流を阻止するのだ」

グルーシー元帥 : 「退路も行き先もわかりません ワーブルか ナミュールか」 
ジェラール将軍 : 「鳥の群れじゃあるまいし」 「見つかるはずです」
ナポレオン : 「もうよい」
「味方同士の対立は 災いを招くぞ」
「戦場での議論は破滅を招く」という独自の主張。これを訳に全く出さないのは字幕翻訳としても問題あり。どこかに「議論」の一言が必要。
「グルーシ ジェラール 行くのだ」 「早く行け」


[第18場面 、名誉ある退却]

プロシア兵A : 「ナポレオンに報復を」
プロシア兵B : 「ブリュッハー 万歳!」
プロシア兵C :
プロシア兵D : 「元帥閣下は最後に勝つ!」


[第19場面 、後退するウェリントン]

ウェリントン : 「ブリュッハーめ」 「30キロも後退するとは」
この字幕では文字面だけみると怒っているようだが、絵面は完全に笑ってにこやか。このセリフは”前進元帥”の異名をもつブリュッヒャーが、後退までして必死に連絡線を維持している(=再び戦うつもり)ので、ようやるわ、みたいな感じで笑っているというもの。この訳では、負けやがて畜生、みたいな感じになっていて全然駄目。
「では我々も」

英軍士官 : 「さあ後退だ」

デランシー : 「イギリス国民は 敵前逃亡と笑うでしょうね」
ウェリントン : 「やむをえん」


兵卒トムリンソン : 「退却だと? バカバカしい」
兵卒マクケビット : 「これも作戦さ」
兵卒オコーナー : 「なら教えろ」
「プロイセンがやられたのに 何で逃げる?」


ウェリントン : 「退却すると 部下も批判的だな」
デランシー : 「敵の銃声を聞けば 目も覚めるでしょう」

ウェリントン : 「さすが92連隊」
「92連隊」なんて書いて、いったいどのくらいの視聴者が理解できると思っているのだろうか? オ・マ・エ・ハ・ア・ホ・カと言いたくなる字幕。こんな分かり難い字幕は最低最悪。この訳者はなんか知らんが、部隊名を尽く字幕に出すが、こだわりすぎ。生兵法は怪我のもと、もっと普通に。
ゴードン公爵 : 「銃剣を持てば士気もあがるさ」
「ガキの頃から知っとる」
「幼少時から、肉と卵(=ありきたりの食事)、つきに一度のレモン(当時一番甘い果物)で満足する単純な奴らだ」というのがこの文の直訳だと思う。

ゴードン : 「うちの領地の農民だ」
「私をダンナと呼ぶ者も」
尻切れトンボ。シーンの終わりにこれはいただけない。字数の工夫は可能なのだから手を抜くな。


[第20場面 、暗雲 ]

ナポレオン : 「なるほど」 「全軍だな」
こんな短いセリフを二つにわけるくらいなら、最後のセリフを訳せよ・・。
ネイ : 「敵は布陣を」
「布陣を」どうした? という感じの訳。前文を無理に二つに分けた悪影響で字数が少ないのでは? とにかく”何”が”どうした”したぐらい作文の基本でしょう。意味が分からん。「なるほど 敵全軍だな」+「布陣中です」でもよかったんじゃないか。
ナポレオン : 「ミスを犯す敵軍を 黙って見守ろう」
ナポレオン :


[第21場面 、ウェリントンとピクトン]

ピクトン : 「この場所は不利だぞ 後ろに森がある」
上官にタメ口聞くな! と言いたい。全体にぶっきらぼうな感じで話しているので、「だぞ」が余計。「この場所は不利 後ろに森がある」で十分。あるいは失礼な態度を取っているわけではないので、丁寧語ぐらいは使うべき。ウェリントンとピクトンは数年来の友人で部下なので、堅くなることはないが、”親しき仲にも礼儀あり”だ。ゴードンは連隊長だが、同じ公爵として爵位は対等だが、ピクトンの場合は爵位も階級も下で、上下関係は明白。
「敵に攻め込まれたら 逃げられん」
「攻め込まれたら」? 直訳は「後退を強いられたら」で攻め込まれた後のことを心配しているのであって、不適切。
「我々は木っ端みじんだ」
ウェリントン : 「下草はない」
「9ポンド砲の大砲でも 楽に運べる」
「砲」を二度繰り返さない工夫を。
「それに森を抜けるのも訳ない」
ピクトン : 「自殺行為だぞ」
ここはこういう風に高飛車な断言口調を避けるように、原文の後半の部分がついているので、そこも留意してもらいたい。
ウェリントン : 「ピクトン 私は一年前--」
「ここを視察しているのだ」
「地理は知り尽くしている」


[第22場面 、先入観にとらわれたナポレオン]

ナポレオン : 「敵将はマヌケだな」
原文は「ウェリントンはカエサルの戦訓を知らんと見える」。これではニュアンスのカケラもないし、面白味もないセリフ。それからウェリントンに対する呼び方がバラバラすぎる。「敵将 」という呼び方がよくでるが、相手がはっきりわかっているわけだから不適切では?「奴」とか、「あいつ」とか、なんとでもなりそうだけれど。
「森を背に陣地を構えておる」
「様子を見よう」
「今夜 逃げるだろう」


[第23場面 、背嚢の子豚]

兵卒オコーナー : 「いい子だ おいで」
「その鼻を鍋で煮てやろう」 「捕まえた!」
子豚 :
兵卒オコーナー : 「静かにしろ 半分 食うだけだ」
子豚 :


デランシー
 : 「閣下 恐れながら」
「お心を明かせば 兵士の信頼も回復します」
兵隊に信頼されないってか。鉄石公爵(アイロン・デューク)に向かって失敬な!去年は大陸軍に所属していた低地地帯の民兵・新兵を除けば、兵隊の絶大な信頼があったのに。後退したときにちょこっと不平を言うシーンがあったからって、こんな曲解した拡大解釈はいかん。
ウェリントン : 「私の髪でさえ 私の頭の中を--」 「知らぬのに?」


英軍兵士C : 「司令官殿だ 立て」
敬称なんて全く使ってない。「Old Atty」と呼ばれているからには、ウェリントンを小うるさい人物だと兵隊が思っているからで、泥棒がパトカーを見たような雰囲気で、「あ、やばい 司令官が来た」というようなニュアンス。それから細かく言うと「司令官」ではなくイギリス軍とオランダ・ベルギーなどアングロ系諸連合軍の”総”司令官です。

デランシー : 「連中ですよ」
この言い方だと、次以降のセリフがアイルランド兵全体に対するコメントのようになり、誤解を与える。特定の連隊に対するもので、ちなみにそれはエニスキレンの第27歩兵連隊のことだ。
ウェリントン : 「アイルランド兵か」
「その昔 随分 手を焼いたものだ」
デランシー :  「どうも」
ウェリントン : 「やあ」
兵卒オコーナー : 「いいお晩で」

ウェリントン : 「背のうを降ろせ」
兵卒オコーナー : 「おれですか?」
ウェリントン : 「お前だ」
兵卒オコーナー : 「ここに」
ウェリントン : 「開けろ」
兵卒オコーナー : 「はい ただいま」

兵卒オコーナー :  「あれまあ 驚いた」
「その・・・ 参ったな」
「どうりで さっきから背中が--」 「かゆいと思った」

ウェリントン : 「そうか」 「こいつをどこで捕まえた?」
兵卒オコーナー : 「これ?」
ウェリントン : 「それだ」
兵卒オコーナー : 「誤解です」
「こいつが おれを 捕まえたんです」

ウェリントン : 「略奪の罪は?」
兵卒オコーナー : 「禁酒ですか」
ウェリントン : 「死刑だ」
兵卒オコーナー : 「閣下 正直に話します」
正直に話してないし、原文からも離れているし。これが嘘話だということは誰もがわかっているわけで、こういう言い逃れ方で許す気になるかな。「報告します」のほうが遥かにいいんじゃないかな。
「この子豚が 迷子になっていたので」
「親豚を捜してやろうと 思いまして」

ウェリントン : 「窮地をよく切り抜けた」
「切り抜けた」か?切り抜けてないだろ。これは翻訳というより、ただの作文。
「伍長に昇格だ」

英軍兵士D :「ヤギを捕まえりゃ軍曹だな」
「今度は」とか「次は」を入れないとジョークにならない。これだと一般的な話のように聞こえる。


ウェリントン
 : 「あれで戦えるのか・・・」 「不安は残るが」

ウェリントン : 「ああ いやな雨だ」
「明日が心配だ」

ウェリントン : 「デランシー」
デランシー :
ウェリントン : 「明日 敵に破れたら・・・」
「神の慈悲にすがろう」 「それしかない」


[第24場面 、総司令官たちの不安]

ナポレオン : (ウェリントンめ 退却しないつもりなのか
あの用心深い男が・・・ ) (何か理由があるに違いない
「用心深い」なんて旧知の間柄のようだが、二人は初対戦。


ウェリントン
 : ( グルーシの追撃を逃れて) (ブリュッハーさえ来れば・・・
「プロイセン軍がカギだな」


ナポレオン
 : 「グルーシは なぜ10キロしか進めん」


ウェリントン
 : 「泥道では グルーシも進めまい」
「だが プロイセン軍の合流が 遅れては困る」


ナポレオン
 : 「グルーシに伝えよ 誰にも道は同じだと」
「違うか」
これは話の流れ(ウェリントン側の会話も流れの一部)からすると、グルーシーから泥道で速く進めないという弱音を吐いた報告が届いたので、それに皇帝が怒っているという状況のシーンだろう。この書き方だと、「誰にでも道は同じだろ、オラー、違うんかい、スルト」という風にナポレオンが理不尽に怒っているだけに見える。
ナポレオン : 「違うか」
スルト : 「御意に」
「御意に」って何をどうするっていうの?意味不明だ。「御意の通りに伝えます」って意味? だとすると、「違うか」という(私はこれにも異議を唱えるが)問いかけ無視なんすか。なんじゃそりゃ。訳者が自分で作った話の道筋を自分で崩してどうする。最悪でも「御意(=その通り)」でないと会話として全く通用しない。
ナポレオン : 「全速力で追えと」
ユーモアを理解しない訳者だ。「もっと速く歩け」というところにこのセリフの面白さがあるのに。これじゃ素人の訳。述語もないので、会話としても不自然。「と」を入れたということは、「伝えろ」という部分が”隠れてる”のだろうが、そうするとグルーシーに、「誰にも道は同じだ 違うか 違うか 全速力で追え」と伝えるの?なんかむちゃくちゃだ。


マッフリン
 : 「我が軍の合流は 難しい状況です」
そんなこと言ってない。ただの作文。史実ではプロシア軍はすでにワーブルに到着済み。
ウェリントン : 「グルーシの軍勢は?」
マッフリン : 「我がプロイセン軍を追って 歩を進めています」
マッフリン :

ウェリントン : 「時刻は?」
ヘイ : 「2時かと」
常識じゃないかな。今まで字数制限破りっぱなしでここで気にするの?
デランシー : 「10分前です」
ウェリントン : 「ミュフリング 悪いが」
「夜が明ける前に もう一度 元帥の元へ」
マッフリン : 「では新しい馬を」
ウェリントン : 「頼む!」
「元帥閣下に昼の1時までに ワーテルローにと」
ピクトン : 「見ろ アクスブリッジ」
「グルーシが向きを変え 我々の間に入り・・・」
アクスブリッジ : 「プロイセン軍をたたけば」
ピクトン : 「敵は友軍を得て 我々をつぶしに来るぞ」
「友軍を得て」という表現は、グルーシーの来援を想像させるが、ここで言っているのはグルーシーがプロシア軍の進路を阻んでしまうことだけで、ナポレオン本隊+グルーシーで英軍を叩くという内容ではない。ここでは英軍はプロシア軍の来援がないと勝敗は薄いという認識にたって話が進んでいる。ややネタバラシ的な先走り。
アクスブリッジ : 「それでもブリュッハーに 望みを託す?」
半疑問形か? この訳者の翻訳で一番悪い点は、語調がころころ変わる点。
ウェリントン : 「助け合って 戦い抜くしかない」

ウェリントン : 「解散だ」

ウェリントン : 「時計を誰かに?」
ヘイ : 「サマセットに」
ウェリントン : 「死を覚悟してか? 縁起でもない」
「かえって 不幸を招く場合もある」

ウェリントン : 「すぐに取り戻せ」


ネイ
 : 「陛下 ラレ医師を呼びますか」
ナポレオン :
ネイ : 「医者を」

ナポレオン : 「いや それには及ばん」
「医者はいい」

ナポレオン : 「何を見てる」
「何だ」

ナポレオン :「行け」
「さあ行くのだ」
「全員だ」


ナポレオン : (病に倒れている場合ではない
明日への力を蓄えねば

ナポレオン : (肉体は死のうと--) (頭脳は鈍ってはおらん

ナポレオン
 : (雨はいつやむのだ?


[第25場面 、6月18日の朝]

英軍兵士E : 「14万の兵力が大集結だ」
英軍兵士F : 「その半分さ」
英軍兵士E : 「フランス軍も入れりゃ 14万にはなる」
英軍兵士F : 「4万は死ぬな」
英軍兵士E : 「生きているうちに スープでも飲め」

英軍兵士G : 「おや 新しい伍長殿だ」
英軍兵士H : 「よう 伍長」
英軍兵士I : 「上官殿に無礼だぞ」

英軍兵士J : 「”ベーコン”はお食べに?」

マーサー大尉 : 「おはよう」
ラムゼー大尉 : 「大尉 いやな夜でした」


[第26場面 、プランスノワの鐘]

ナポレオン : 「おはよう」

ナポレオン : 「これを」
ナポレオン : 「何を見てる」
ネイ : 「ご気分は?」
ナポレオン : 「このとおり」
ナポレオン : 「絶好調だ 食事にしよう」

ナポレオン : 「午後には祝勝会だな」
ナポレオン : 「9時に攻撃だ 地面は?」
スルト : 「昼までに乾きません」
ナポレオン :
ネイ : 「泥道は経験済みです」
「経験済み」?妙なセリフ。舗装道路の少ない時代なんだから、当たり前田のクラッカー。これだと泥道が珍しい現象みたいだが、泥道なんて珍しくもないだろうに。
ナポレオン : 「そうだったな」

ネイ : 「今までも何とかやってきた」
ナポレオン : 「そうとも 不可能はない」

ナポレオン : 「あの鐘は?」
ラベドワイエール : 「プランスノワの教会で 日曜礼拝でしょう」
ナポレオン :
「人が集まるものか」


[第27場面 、泥濘による遅延]

ナポレオン : 「何だ ドルーオ」
ドルーオ : 「恐れながら--」 「4時間の猶予を 泥で大砲を動かせません」
ナポレオン  :  「勝機を逸するぞ」
ネイ : 「1時間で勝てます」
「相手はイギリスや ドイツの寄せ集め軍隊だ 」
確かに英軍には、現在ドイツに属する地域の兵隊も多いわけだが、字幕ではプロシア軍と誤解されかねない。ブラウンシュバイクをドイツとするより、丸ごとカットして寄せ集めだけか、ベルギーで十分では?
ドルーオ : 「砲撃はできません」
砲撃はできるだろ。大砲を砲撃に適した位置に移動できないのであって、それと砲撃できないとは別。
ナポレオン : 「いつならできる?」
最初に4時間後って言ってただろ、聞いてなかったの?というようなトホホな作文。ここは原文が抽象的な内容なんだから、勝手に具体的なセリフにせず、それに従うべき。
ドルーオ : 「12時なら何とか」
ナポレオン : 「一瞬も無駄にできん」
ドルーオ : 「敵が動けば 攻撃をかけますが」
「泥を味方に動きません」
ナポレオン : 「そうか」
この段階で明らかにナポレオンは納得してない。映像を見ればどう考えても「そうか」じゃないはずだ。この後のナポレオンが泥に足を取られるシーンで、「ドルーオは正しかった」と過去形になるのは、この段階では泥について納得してないからこそ。
















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