[第28場面 、芝居がかった序幕]
アクスブリッジ : 「閣下」
ウェリントン : 「アクスブリッジ」
アクスブリッジ : 「副司令官としてお聞きします 閣下に何かあったら--」 「私は何を?」
ウェリントン : 「敵を撃て」
ここの一連のセリフで面白い点は、「作戦は?」→「勝つこと」というライン。そこが完全に欠落している。この訳者はユーモアのセンスがまるで無い。「何をする?」→「敵を撃て」では、何の面白味も無い、ふつーうの会話。
アクスブリッジ :
ウェリントン : 「仰々しい連中だ」
「だが美しい」
ウェリントン : 「君は幸運だ ヘイ これが初陣とは」
ヘイ : 「閣下 あれを」
ウェリントン :
ヘイ : 「ほら あそこです」 「白い馬が」
「怪物です」
字面だけみると、白い馬が怪物みたい。もうちょっと工夫を。この訳者は急に具体的になったかと思えば、急に曖昧になったりと一貫性がない。
ウェリントン : 「ヨーロッパ最大の 盗人のお出ましか」
ルビ(盗人=ぬすっと)
マーサー : 「ナポレオンは射程内です 砲撃の許可を」
ウェリントン : 「いかん」
ウェリントン : 「司令官たる者 潔く戦わねば」
歌 : 「ナポレオンは戦った ロシアと」 「ナポレオンは戦った プロイセンと」 「ナポレオンは戦った ロシアと」
ウェリントン : 「まったく因果な商売だ」 「戦争とは」
デランシー : 「黙らせますか」
ウェリントン : 「いや」 「いい ほうっておけ」
「時間を稼げるなら 今朝は手段を選ばん」
「士気高揚は嫌いだが」 「人間 時には妥協も必要だ」
「デ・ランシー 頼めるか?」
「何を?」と言わずにはいられないようなセリフ。もちろん「士気高揚」をなのだろうが、途中に別のセリフが入っているので、この文だけで何をどうしてほしいのか的確に字幕にしたほうがいい。
デランシー : 「フランス軍を破るのは?」
兵隊の合唱 : 「我らが司令官!」
英軍兵士K : 「ワシ鼻の知将は?」
兵隊の合唱 :
英軍兵士L :
兵隊の合唱 :
ウェリントン : 「白馬に乗らなくても 威厳は示せる」
英軍兵士M : 「スルトを討つのは?」
兵隊の合唱 : 「我らが司令官!」
英軍兵士N : 「フランスを倒すのは?」
兵隊の合唱 : 「我らが司令官!」
英軍兵士O : 「敵将を追い出すのは?」
兵隊の合唱 : 「我らが司令官!」
英軍兵士P : 「敵を駆逐するのは?」
兵隊の合唱 :
英軍兵士Q : 「ワシ鼻の知将は?」
兵隊の合唱 :
英軍兵士R : 「敵を破るのは?」
同じセリフだが?少なくとも「敵軍」では。
兵隊の合唱 :
英軍兵士S : 「敵将を討つのは?」
ケツに蹴りいれるって言っているんだから、もうちょっとニュアンスを。全体的にここは堅い。
兵隊の合唱 : 「我らが司令官!」
[第29場面 、ナポレオンの作戦]
ナポレオン : 「ここから出せ!」
ナポレオン : ( ドルーオの言うとおり 泥は手ごわい )
( 最大の敵は自然だ )
スルト : 「命令書です」
ナポレオン : 「トロイ戦争並に多い」
なんで敢て「並に」を入れたのか不可解。むしろ語尾に「な」とかつけたほうがいいのでは?
ナポレオン : 「砲兵の位置から 右翼に重点を置いているな」
内容が不明瞭。「から」の使い方が日本語としておかしいし、主語もなし。「な」は削っても問題ないのだから、前半部に一字追加すればいろんな言い方ができる。
「攻撃を恐れておる」
”何が”?”何を”?前文に輪をかけて不明瞭。こんなのが続くと字幕翻訳家としての技量を疑う。前文を「砲兵の位置から 重点を置いている右翼への--」とすれば(この論旨でも)もっとましだろうに、流れもない。
「よし」
「揺さぶりをかけるか」
「陽動作戦と行こう」
「右翼を攻撃し 中央の兵力を移動させよう」
「はてさて」 「イギリスの公爵殿は どう出るかな」
[第30場面 、今日の獲物に]
ウェリントン : 「諸君」
「今日の獲物に」
ウェリントン : 「その軍服は?」
ヘイ : 「ロンドンの仕立て屋で」
ウェリントン : 「デ・ランシー」 「戦いには正装で臨め」
ウェリントン自身が略装で、正装ではないのに? 「着飾れ」って言ってるだけで正装しろなんて一言も言っていない。このセリフは突然呼び出されて平服のままで、16日から同じ服装のむさいピクトンを皮肉ったものだが、これで分かる?
ピクトン :
[第31場面 、息子]
ナポレオン : 「ラ・ベドワイエール」
ラベドワイエール : 「はい」
ナポレオン : 「子はおるか?」
ラベドワイエール : 「息子が1人」
「軍靴くらいの背です」
ナポレオン : 「ここにいて欲しいか?」
ラベドワイエール : 「もちろん」
ナポレオン : 「なぜだ」
ラベドワイエール : 「陛下に会えます」
ナポレオン : 「余にか・・・」
「余にも息子が」
「一目 会えるなら 身も心もなげだすが」 「ここにはいない」
この「But not here」の解釈は間違いだろう。日本語としても会話が不自然なものとなっている。
「この戦いは見せたくない」
ナポレオン : 「敵の主力は丘のむこうだ」 「前衛しか見せんとは--」
はっきりと言うが「前衛」ではない。原文とも事実とも明らかに異なる。史実に疎いのに、妙なところで軍事用語を使うからこんな失敗をするのであろう。「Facade」を普通に訳せばいいのに。「前衛」を英語で言えば「Advance
guard」、これを見ただけでも明らかに違うとわかるだろう。あえて言うならだが、前衛というより前哨のほうがまし。
「賢い男だ」 「実に賢い」
ナポレオン : 「あれを撃て」
攻撃開始が砲撃から始まるので、訳者は誤解しているのだろうが、これでは誤訳。あそこから攻撃しろと普通に言っている。
「ウーゴモン城館だ」
[第32場面 、 戦闘開始]
ウェリントン : 「舞踏会の始まりだ」
デランシー : 「11時35分です」
ウェリントン : 「各自 持ち場に戻れ」
デランシー : 「持ち場に戻れ」
英軍士官 : 「撃て!」
仏軍士官 :
「撃て」
仏軍士官A : 「大隊 前進しろ!」
「全隊 前へ進め」
仏軍士官B : 「そのまま前へ進め」
「後に続け」
[第33場面 、 ウーゴーモン]
午前11時55分 ウーゴモン
デランシー : 「敵はフォワ師団投入 右翼に攻撃を」
意地悪な言い方だけれども、なんでここは「第9歩兵師団」じゃないのだろうか。まじめに言うと、この字幕には実際の役者が演じているときの緊迫感がない。
ウェリントン : 「敵将の狙いは 別にあるかもしれんぞ」
デランシー : 「第95連隊の移動を」
ウェリントン : 「焦ってコマを 動かしたくない」
「時間はある」
午後12時10分 ウーゴモン
[第34場面 、正面攻撃 ]
ナポレオン : ( 丘の上に 張り付いてるつもりだな )
「Ridge」は「丘の上」とは違うと思うが・・・。
( あのイギリス人は 尊敬すべき資質を備えておる )
( 用心深さ そして極めつけは-- ) ( 勇気だ )
退位のシーンでも言ったが、この訳者の「above all」の訳し方は変。
ナポレオン : 「敵は動かん ピクトンの部隊に砲撃しろ」
今度は師団にはしないのかな?
ウェリントン : 「今度は君が標的か」
ピクトン : 「大砲の扱いが実に見事だ」
ウェリントン : 「拳銃のようだな」
ウェリントン : 「バイランド旅団がもつか」
ピクトン : 「大丈夫 何事も経験だ」
ウェリントン : 「幸運を祈ろう」
ウェリントン : 「なじみの隊形で来たな」
ピクトン : 「ではこちらもいつもの戦法で」
[第35場面 、酒こそ我らが魂 ]
英軍軍曹 : 「飲めるうちに飲んどけ」
「最後の酒かもしれん」
縁起でもない。
伍長オコーナー : 「ディック」
兵卒トムリンソン : 「いらない」
伍長オコーナー : 「飲めよ」 「国王のおごりだぜ」
国王に対する話し方が不遜。原文ではきちんと敬語を使っている。
「戻ったら礼を言おう」
兵卒マクケビット : 「敵は大勢かな」
伍長オコーナー : 「丘が邪魔で見えるか」
兵卒マクケビット : 「まるで地獄が 地の底から--」 「上がってくるようだな」
伍長オコーナー : 「信心深い友達が隣で 心強いよ」
「まったく」
英軍士官 : 「歩兵連隊 まもなく前進するぞ!」
尽く、部隊名を出してきたのに、ここは逃げたな。
[第36場面 、嗅ぎたばこ ]
ポンソンビー : 「突撃前の一服だ」
アクスブリッジ : 「こりゃ強烈だ」
ポンソンビー : 「もう手には入らん」 「父の形見の かぎタバコだ」
「ユダヤ人がブレンドした」
アクスブリッジ : 「ブレンド?」
ポンソンビー : 「父はフランス軍に殺された」 「二の舞いはごめんだ」
「馬の足が ぬかるみにはまり」
「槍騎兵7人に くし刺しに」
ルビ(槍=そう)
「不運な父だ」
アクスブリッジ : 「気の毒に」
ポンソンビー : 「もっといい馬を 400頭も飼っていたのに」
午後2時 ウーゴモン
[第37場面 、ピクトン戦死]
ウェリントン : 「バイランドの部隊が崩れた」
ピクトンへの指示が削除されている。これではダメ。このセリフで、「バイランド」よりも、後半の崩れた戦線を塞げの部分のほうが重要。これだと重騎兵で戦線を塞ぐような感じになっているが、事実に反する。スコットグレイズの命令はピクトン師団の支援。主従逆転してる。
ウェリントン : 「重騎兵の投入を」
英軍士官
: 「直ちに」
ピクトン : 「ゴードン」
「お前の連隊を前に出せ わしも師団と突入する」
ここははっきり「旅団の残り」と言っている。誰も師団の全兵力を投入するなんか言ってない。史実ではケンプト旅団とパック旅団(こちらに第92ハイランダーズ連隊が所属)がこの危機に出撃している。ピクトンの師団にはこのほかにハノーバー旅団もあった。基本的に(フランス軍と違って)イギリス軍は(部隊間の質にバラツキがあることもあって)師団丸ごとで行動しない。特にワーテルローでは局地戦になったので、連隊=旅団単位の行動が多い。また「前に出せ」ではなく、「先に行け」だろ。
ゴードン : 「ゆっくり来いよ 敵はおれたちで阻止する」
ピクトン : 「さっさと行かんか」
ゴードン : 「第92連隊 前進する」
「グリーンスレード マッケンナ」
マーサー :
「撃て」
ピクトン : 「酔っ払いども 進め!」
「油断するなよ」
蛇足。よけいな意訳。どうせ入れるなら「ボケっとするな」とかなんとか、もっと雰囲気にあったものにすべき。罵詈雑言の間に、急にまともなセリフが入って妙な感じ。作文ぐせがでてる。
「泥棒野郎 ロクでなし!」
[第38場面 、 スコッツ・グレイズ突撃]
ナポレオン : 「竜騎兵連隊は手ごわい」
これだと「竜騎兵」全般が手ごわいことになる。最低でも「あの」をつけないと。ちなみにこのとき突撃したのは二個旅団(うち一つがポンソンビーの北方旅団)。
ケレルマン将軍 : 「誉れ高い連中ですが 指揮は最低です」
ナポレオン : 「そうだな」 「そうかもしれん」
「槍騎兵で迎え撃とう」
アクスブリッジ : 「呼び戻せ」
ウェリントン : 「吹いても無駄だ」
「耳に悪い」
ポンソンビー : 「下がれ 下がれ」 「退却ラッパを」
そんなラッパ指示してない。突撃中に退却命令なんかしたら大混乱になって大惨事まちがいなし。”再集合”と”退却”には雲泥の差がある。再集合というのは単に後退するのではなくて、集結し、秩序を取り戻す動き。退却って言ったら潰走を意味する。
英竜騎兵A : 「槍騎兵が左に」
英竜騎兵B : 「気をつけろ」
英竜騎兵C : 「退却しろ」
英竜騎兵D : 「側面を突かれた」
ポンソンビー : 「息子に」 「ご無事で」
なんで部下(しかもトランペッター)に敬語を?発言者を間違えた?
[第39場面 、増援部隊]
ジェラール : 「元帥 砲声が呼んでいます ”主戦場へ来い”と」
「3万の兵と共に・・・」
命令する感じどころか、指図している感じも薄い。姿勢が低すぎて、次のグルーシーのセリフが浮いている。
グルーシー : 「私に命令する気か ジェラール」
「陛下の命令は ブリュッハーの追撃だ」
ジェラール : 「では せめて私を ワーテルローへ」
グルーシー : 「兵力を分けるのか」
「縛り首にされる」
「命令は絶対だ」
ナポレオン : 「ラ・ベドワイエール」
ラベドワイエール :
ナポレオン :
「あれは?」
ラベドワイエール : 「縦隊の軍勢です」 「5~6千はいます」
妙な言い回し。日本語として変。「縦隊が見えます」でいいんじゃないか?
宮廷団長ベルトラン将軍 : 「そのとおり」
スルト : 「馬も見えます」
ナポレオン : 「どちらの馬だ?」
究極のバカ誤訳
。どちらの馬だってどういうこと??? ちょっと考えれば変だなと気づくのではなかろうか。部隊のことに決まってるじゃないか。馬が見えるってことは騎兵隊がいるってこと。しかもこの場合、馬だけじゃなく発見した部隊すべてがどっちの軍隊かということが問題になっているわけで、「whose」の対象は明白でしょう。
「フランスか プロイセンか」
デランシー : 「グルーシの青です」
アクスブリッジ :「まずい 敵の援軍ですぞ」
ウェリントン : 「味方かもしれん」
色の話をしているので、そこを残すべき。
ウェリントン : 「君は目がいい 軍服を見ろ」
ヘイ : 「あれは恐らく・・・」
ナポレオン : 「プロイセン軍だ」
ナポレオン : 「間違いない ブリュッハーの軍勢だ」
「だが敵は 月の上にいるも同然だ」
「分かるな?」
ネイ : 「はい」
ナポレオン : 「今のうちに 微動だにしない敵将を--」
「いぶり出そう」
ナポレオン : 「グルーシは?」
誰かと会話しているのではなく、とにかく怒りをぶちまけているんだから、はっきりセリフを最後まで書かないと意味がわからん。手抜きにしか見えん。
ナポレオン : 「ラ・エ・サント農場を 攻略した方が勝つ」
「行け」
ナポレオン : 「グルーシは?」
「あの兵力が必要だ」
「どこだ なぜ駆けつけてこない」
ベルトラン : 「陛下 痛むのですか?」
いきなり「痛むのですか」はないだろう。普通、まず「大丈夫ですか」じゃないか?もうこの字幕ははなっから負傷の可能性を除外し、病気を確信したコメントになっている。何度も言うが下手な作文するな。翻訳者は脚本家ではない。
軍医長ラレイ : 「侍医として 休息をお勧めします」
「一時間お休みください」
ナポレオン : 「胃が痛むだけだ 案ずるな 心配ない」
ナポレオン : 「ラ・ベドワイエール」
「ここへ」
[第40場面 、 死してなお残るもの]
ナポレオン : 「今 思えば」 「アウステルリッツの後--」
「6年間は--」 「幸せな時を過ごした」
こんなこと言ってない。またもや勝手な作文
。この変な改ざんのせいで、この一連のセリフが意味不明になっている。ここセリフは、アウステルリッツ会戦の大勝利の後、今後6年以上はいい年(=平和の意味、勝利ではない)が続くだろうといったのに、その後の10年間で9回の戦役を戦ったということで、その通りにはならなかったなぁと回顧しているのであって、完全に意味を取り違えている。
「あれから10年の月日が流れ」 「9つの戦争があった」
「聞いてるか」
ラベドワイエール : 「謹んで」
意味が違う。日本語の使い方を間違えている。敬語が使えないなら、ここは「はい」で十分。
ナポレオン : 「余が死ねば 世界の人々は何と言うかな」
ラベドワイエール : 「栄光に上り詰めた男」
普通の言い回しに変わっている。敢て奇をてらったセリフが原文にあるときに、そのニュアンス無視して普通の会話のように字幕にしてどうする。はっきり言って、この原文のセリフは深い。「栄光の限界を超えた(伸ばした)」とラベドワイエールはナポレオンが喜ぶように言うのだが、結局は栄光にも限界があることを逆に改めて知らされ、
「限界」という言葉がナポレオンに重くのしかかってくる。「栄光の限界」ははずせない。
ナポレオン : 「息子に残せるのは--」
「栄光だけか」